恋愛における暴力、いわゆる「デートDV」は、決して一部の人だけに起こる特別な出来事ではありません。
カナダのケベック大学モントリオール校のジョアン・ヴェジナ氏とマルティーヌ・エベール氏の研究チームは、1986年から2006年の間に発表された61件の研究データを徹底的に分析しました。この膨大なデータから、12歳から24歳の若い女性がどのような状況で交際相手からの暴力(心理的、身体的、性的暴力)を受けやすくなるのか、その「リスク要因」を科学的にまとめています。
今回は、この研究結果を元に、私たちが知っておくべき「自分を守るための科学的な視点」をわかりやすくお伝えします。
今回のポイント
- デートDVは、個人の性格だけでなく「家庭環境」や「友人の影響」も大きく関わっている。
- 「抑うつ状態」や「暴力への肯定的な考え」が被害リスクを高める可能性がある。
- パートナーとの「力の差(年齢差や支配)」が暴力の引き金になりやすい。
12歳から24歳の女性を対象とした61件の研究レビュー
今回の解説の基となったのは、過去20年間にわたる61件の経験的研究をまとめたレビュー論文です。研究チームは、単に「本人の性格」だけを見るのではなく、「エコロジカル・アプローチ」という手法を用いて分析を行いました。
エコロジカル・アプローチとは、つまり「人間を取り巻く環境を多層的に捉える考え方」のことです。中学理科で習う「生態系」のように、個人の周りには家族、友人、地域社会といった様々な層があり、それらが互いに影響し合っていると考えます。
具体的には、以下の4つのカテゴリーでリスク要因を分類しています。
| カテゴリー | 具体的な内容 |
|---|---|
| 社会人口学的要因 | 年齢、居住地域、家族構成など [cite: 89] |
| 個人要因 | 自尊心、抑うつ、行動特性など [cite: 220, 221] |
| 環境要因 | 家族の暴力、友人の影響など [cite: 372, 377] |
| 文脈要因 | パートナーとの関係性、年齢差など [cite: 87, 455, 456] |
家庭環境と地域が被害リスクに与える影響
研究の結果、社会的な背景も無視できないことが分かりました。
「家庭の形」と監視の目
複数の研究において、「ひとり親家庭」などで育った若者は、両親が揃っている家庭に比べて被害リスクが高い傾向が示されました。これは決して「家庭の形」そのものが悪いわけではなく、大人の目が届きにくいことで、本人がリスクの高い行動をとる可能性が高まるためだと推測されています。
都会よりも地方がリスクが高い?
意外なことに、地方(ルーラルエリア)に住んでいる女性の方が、都市部に住む女性よりも被害を受ける確率が高いというデータがあります。この理由として、地方特有の「男性優位の考え方」や「周囲からの孤立」、「相談できる場所の不足」などが挙げられています。
「心の状態」と「行動のクセ」が招く被害の連鎖
次に、本人の心理状態や行動がどのように影響するかを見てみましょう。
抑うつと自尊心の問題
科学的に強い関連が認められたのは、「抑うつ症状」や「自殺願望」がある場合、暴力の被害に遭いやすいという事実です。心が弱っていると、相手の不適切な行動に対して「自分が我慢すればいい」と考えたり、関係を失うことを極端に恐れたりしてしまうからです。
外向的な問題行動(Externalizing Problems)
専門用語で「外向的な問題行動」と呼ばれる、アルコールや薬物の使用、複数の交際相手、早期の性的経験などもリスクを高めます。つまり、「刺激の強いライフスタイル」は、必然的にリスクのある人物と出会う確率を上げてしまうのです。
特に、お酒を飲んでいる最中のデートでは、判断力が鈍るため、性的・身体的暴力が発生しやすいことが数値でも示されています。
なぜ暴力は繰り返されるのか?環境要因の闇
研究チームは、被害の背景に「過去の経験」が重くのしかかっていることを指摘しています。
最も顕著なのは、「幼少期に家庭内暴力を目撃した」あるいは「自身が虐待を受けた」経験です。これによって「暴力は対立を解決する一つの手段だ」と無意識に学んでしまったり(社会的学習理論)、自己肯定感が低くなったりすることが、後の恋愛での被害につながります。
また、「暴力的な関係にある友人」がいることも、暴力の正常化(当たり前だと思ってしまうこと)を招き、リスクを高める要因となります。
「年上の彼氏」と「支配関係」の危険性
最後に、具体的な交際関係の中でのリスク要因(文脈要因)です。
特に注意すべきなのは、以下の条件が揃った時です。
- パートナーが自分よりかなり年上である:知識や経験の差から、相手が支配的な立場になりやすいためです。
- 関係の主導権を相手が握っている:デートの場所や費用、決断のすべてを相手が決める関係は、暴力の前兆となり得ます。
- お互いに暴力を振るい合っている:一方が被害者であると同時に、もう一方に手を出す「相互暴力」のパターンも、若年層では非常に多く見られます。
研究チームによる考察:予防のために何ができるか
研究チームは、現在の予防プログラムの多くが「意識を変える」という一般的なものにとどまっている点を課題として挙げています。本当に被害を減らすためには、リスクの高い若者(中退者や虐待経験者など)をピンポイントで支援するアプローチが必要だとしています。
また、親の監視や愛情深いサポートは、若者がリスクのある行動をとるのを防ぐ「保護因子(守ってくれる要因)」として非常に有効であるとも結論づけています。
幸せな恋愛のために。今日から意識できること
研究データを踏まえ、日常生活で自分を守るためのステップをまとめました。
1. 違和感を見逃さない
相手が予定をすべて決めたり、行動を過剰に制限したりする場合は要注意。1のように「力の差」を感じる関係は、対等な愛ではありません。早めに信頼できる大人や友人に相談しましょう。
2. 自分の心のケアを優先する
2のように抑うつや自尊心の低下を感じている時は、恋愛でその穴を埋めようとせず、まずは自分自身の心の回復に専念してください。自分の価値を認めることが、健全なパートナー選びの第一歩です。
3. 友人の関係性を客観的に見る
周りの友人が「叩かれるのも愛のうち」といった考えを持っているなら、距離を置くことも大切です。3のように、自分が所属するグループの価値観は、自分の恋愛基準に直結します。
今回の研究が示すように、デートDVは多くの要因が重なって起こるものです。知識を持つことで、最悪の事態を避ける確率をぐっと上げることができるでしょう。
参考文献
Vézina, J., & Hébert, M. (2007). Risk Factors for Victimization in Romantic Relationships of Young Women: A Review of Empirical Studies and Implications for Prevention. Trauma, Violence, & Abuse, 8(1), 33-66. https://doi.org/10.1177/1524838006297029



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