「もし、土曜日の夜に自分の知らない誰かとデートしている恋人を見かけたら……」。そんな想像もしたくない修羅場に直面したとき、人は一体どのような行動をとるのでしょうか。
神戸大学の研究チーム(神野 雄 氏)は、恋愛関係にある大学生112名を対象に、架空の浮気場面に対する予測行動を測定する尺度「ABSII(Anticipated Behavior Scale for Imaginary Infidelity)」を開発し、その心理メカニズムを分析しました。
この記事では、最新の心理学研究が明らかにした「裏切りの後の5つの行動パターン」と、それを選ぶ人の心理的背景をわかりやすく解説します。
今回のポイント
- 浮気への予測行動は「攻撃」「沈黙」「別れ」「対話」「ライバル」の5タイプに分かれる。
- 現在の関係に満足している人ほど「対話」を、満足度が低い人ほど「別れ」を選択しやすい。
- 女性は怒りをぶつける「攻撃志向」、男性は恋人を独占しようとする「ライバル志向」が強い傾向にある。
112名の大学生を調査!「浮気デート」を想定した心理実験
この研究では、現在交際相手がいる25歳未満の未婚大学生112名を対象に、詳細なアンケート調査が行われました。
参加者には、「土曜日の夜、恋人があなたの知らない人物とデートしている姿をたまたま目撃してしまった」という場面をリアルに想像してもらい、その後に自分がどのような行動を取ると思うかを回答してもらいました。
ここで用いられたのが「ABSII」という新しく開発された尺度です。これは、単なる恋愛価値観を測るものではなく、「今のパートナーとの関係性」を前提に、もしもの裏切りにどう反応するかという心の力動を捉えるためのものです。
浮気への反応は5つのパターンに分類できる
分析の結果、人が予測する対処行動は、大きく以下の5つの「志向(タイプ)」に分類されることがわかりました。
① 攻撃志向:怒りを直接ぶつける
「心の痛みをぶつける」「意地悪なことを言う」「相手を責める」といった、パートナーに対する攻撃的な態度です。
② 沈黙志向:事態を静観する
「普段通りに接する」「自分の見間違いだったことにする」など、あえて葛藤に触れず、時間が解決するのを待つタイプです。
③ 別れ志向:関係の解消を選ぶ
「別れ話をする」「距離を置くことを提案する」など、直接的に関係の終了を目指す行動です。
④ 対話志向:話し合いで修復を図る
「正直な気持ちを伝える」「落ち着いて相手の事情を聞く」といった、冷静に関係を維持・改善しようとする建設的な姿勢です。
⑤ ライバル志向:第三者へ意識を向ける
「ライバル(浮気相手)に直接会おうとする」「自分が恋人だと伝えに行く」など、パートナーではなく、関係を脅かす第三者に対処しようとする行動です。
数値が証明!「満足度」と「投資量」が行末を決める
研究では、現在の恋人との関係性がこれらの行動にどう影響するかが数値で示されました。ここで使われたのが、「投資モデル」という考え方です。
投資モデルとは、関係の満足感だけでなく、それまでに費やした時間や努力(投資量)が「別れにくさ」を決めるとする理論です。
調査の結果、関係満足感が高いほど「対話志向」が強くなり($pr=.31, p<.01$)、「別れ志向」が弱くなる($pr=-.36, p<.001$)ことが確認されました。つまり、幸せなカップルほど、裏切りに際してもまずは「話し合い」という修復の道を探るのです。
一方で、面白いのは「投資量(費やした時間や資源)」の影響です。たとえ満足度が低くても、投資量が多いと「別れるコスト」が高くなるため、関係を維持しようとする力動が働きます。
しかし、その副作用として「攻撃志向($pr=.42, p<.001$)」や「ライバル志向($pr=.29, p<.01$)」が高まることも示唆されました。別れられないからこそ、裏切った相手やライバルに対して、より激しい感情を爆発させてしまう可能性があるのです。
「攻撃」は女性に多く、「ライバル牽制」は男性に多い?
行動の予測には、性別による違いも見られました。
統計的な比較($t$検定)によると、「攻撃志向」では女性の得点が男性よりも有意に高い($t=2.11, p<.05$)結果となりました。女性の方が、パートナーに対してネガティブな感情を直接表出しやすいという過去の研究結果とも一致しています。
反対に、「ライバル志向」では男性の方が有意に高い($t=-2.24, p<.05$)ことがわかりました。男性はライバルに接触することで、パートナーと他の男性を遠ざけ、自分の独占状態を守ろうとする生存戦略的な本能が強く働くのかもしれません。
「別れたい」と「傷つけたい」は別物
この研究の最も重要な発見の一つは、「攻撃志向(傷つけたい)」と「別れ志向(離れたい)」は質的に異なるということです。
これまでの心理学研究では、これらは「破壊的な行動」として一括りにされることもありましたが、分析の結果、両者には明確な違いがありました。
「攻撃志向」は「対話志向」とほぼ無相関でしたが、「別れ志向」は「対話志向」と強い負の相関($r=-.26, p<.01$)を示しました。
つまり、「怒りをぶつける(攻撃)」人はまだ修復のための対話をする可能性を残していますが、「別れを考える」人は、そもそも対話すること自体を放棄している傾向があるのです。
研究の限界とこれから
研究チームは、今回の結果はあくまで「架空の場面」での予測であり、実際の浮気現場での行動とは一致しない可能性があると慎重な見方を示しています。
また、調査対象が大学生であったため、子供や仕事などのしがらみが多い夫婦関係では、また異なる結果が出るかもしれません。
しかし、この「ABSII」という尺度が開発されたことで、「なぜあの人はあんな行動をとったのか」「なぜ別れを選ばなかったのか」という恋愛の難問を、科学的に紐解く大きな一歩となりました。
浮気という極限のストレス状況下で、私たちの心がどのように自分を守り、関係を維持(あるいは終了)させようとするのか。そのパターンを知ることは、自分自身の恋愛傾向を理解する助けになるはずです。
あなたがもし「もしも」の場面を想像したとき、真っ先に思い浮かんだ行動は、今の二人の関係性を映し出す鏡なのかもしれませんね。
参考文献
神野 雄 (2017). 架空の浮気場面への予測行動尺度の信頼性・妥当性の検討. パーソナリティ研究, 26(2), 140-153.


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