恋愛心理学新聞です。今日は、現代の日本社会でなぜこれほどまでに結婚が難しくなっているのか、その核心に迫る研究をご紹介します。私たちが「自由に相手を選べるようになった」はずの時代の裏側で、実は出会いのインフラが静かに崩壊していたことが明らかになりました。
国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆氏と三田房美氏の研究チームは、1970年代から続く初婚率の低下が、どのような出会いの変化によって引き起こされているのかを膨大なデータから分析しました。その結果、未婚化の要因は個人の意識の問題だけではなく、社会的なマッチング機能の失墜にあることが浮き彫りになったのです。
今回のポイント
- 初婚率が低下した原因の約5割が、お見合い結婚の減少によるもの。
- 低下分の約4割は、職場や仕事を通じた出会い(職縁結婚)の減少で説明できる。
- 友人や学校、旅行先での出会いの確率は、過去40年間ほぼ変わっていない。
30年間の初婚プロセスを「出会いのきっかけ」から逆算する
研究チームは、国立社会保障・人口問題研究所が長年実施している「出生動向基本調査」のデータを分析しました。この調査は、実際に結婚した夫婦がどのようなきっかけで出会ったのかを詳細に記録した、日本で最も包括的な統計資料の一つです。
分析の対象となったのは、1930年代から2000年代前半までの夫婦です。研究では、出会いのきっかけを「見合い」「職場」「学校」「友人・きょうだい」「街中・旅先」などのカテゴリーに分け、それぞれの出会い方が初婚率全体にどれだけ影響を与えているかを数値化しました。
ここで重要な指標となるのが、対未婚者初婚率です。これは、その年の未婚人口に対してどれだけの結婚が発生したかを示すもので、単なる「結婚した人の内訳」ではなく「独身の人がどれだけ結婚しやすかったか」という確率を表しています。
衝撃の事実:初婚率低下の約9割は「お見合い」と「職場」の減少
1970年代以降、日本の初婚率は底なしの低下を続けていますが、その内訳を要因分解(どの要素がどれだけ変化に寄与したかを計算する手法)したところ、極めて明確な結果が出ました。
過去30年間の初婚率の低下分のうち、約5割がお見合い結婚の減少によって説明され、さらに約4割が職場結婚(職縁結婚)の減少によって説明できることがわかったのです。つまり、日本人の結婚チャンスが失われた理由の9割近くが、この2つのルートの消滅に集約されています。
自由恋愛のルートは40年間「増えていない」
多くの人が「お見合いが減った分、みんなが自由に恋愛して出会うようになった」と考えがちですが、データはこの予想を否定しています。学校で出会う「学縁結婚」や、友人の紹介による「友縁結婚」、趣味や旅先での出会いなどは、未婚者に対する発生確率という点で見ると、この40年間ほとんど変わっていません。
言い換えれば、私たちは「自由な恋愛ルート」で結婚する能力が上がったわけではなく、単に社会から用意されていた強力なマッチング装置(お見合い・職場)を失っただけの状態にあるといえます。
かつての日本企業は「最強の結婚相談所」だった
なぜこれほどまでに職場結婚が減少したのでしょうか。研究チームは、1960〜70年代の日本的な企業社会が果たしていた役割に着目しています。
当時の企業は、終身雇用や充実した福利厚生を背景に、従業員を家族のように扱う「温情主義」的な側面を持っていました。上司や先輩が部下の結婚を世話し、社内旅行やサークル活動が活発に行われる中で、身元の保証された男女が自然に出会う環境が整えられていたのです。これは、個人の意識とは無関係に機能していた「社会的なお節介システム」でした。
しかし、バブル崩壊後の経済状況の変化や個人主義の浸透により、企業が「従業員の人生の面倒を見る」余裕は失われました。また、女性のキャリア意識の変化や、社内結婚に伴う配置転換などの慣行も、職場結婚を阻害する要因となりました。
大企業や官公庁に勤める人ほど「出会い難」に?
興味深いことに、統計分析(多項ロジット分析)の結果、大企業の事務職や官公庁に勤務する男女は、かつてはお見合いや職場結婚の機会に非常に恵まれてきたことが示されています。しかし、裏を返せば、そうした層は職場以外のプライベートな出会いのルートが相対的に乏しい傾向があります。
システムの崩壊により、これまで最も結婚しやすかった条件の人たちが、今や最も「出会いの機会」を奪われるという皮肉な現象が起きている可能性が示唆されています。
システムなき時代の「ワーク・ライフ・バランス」の重要性
研究チームは、職場が出会いの場としての機能を失っている一方で、現代の独身男女の働き方が相変わらず「長時間労働」であるという矛盾を指摘しています。20代後半の働く男性の約9割、女性の約8割が週40時間以上を職場で過ごしており、職場以外の新しい出会いの場を開拓する時間的・経済的な余裕が奪われています。
かつての「企業社会が結婚を保証してくれた時代」は二度と戻りません。しかし、マッチング・メーカーとしての企業の役割が消えたのであれば、それに代わる個人の自由な時間を確保するための「ワーク・ライフ・バランス」の抜本的な意識改革がなければ、未婚化の解決は難しいと研究は締めくくっています。
「いい人がいない」という悩みは、あなたの性格のせいではなく、かつての日本が持っていた「お節介なインフラ」が消滅したことによる、社会全体の構造的な問題なのかもしれません。
参考文献
岩澤美帆・三田房美(2005)「職縁結婚の盛衰と未婚化の進展」『日本労働研究雑誌』No. 535, pp. 16-28. 国立社会保障・人口問題研究所.


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