「愛されること」と「愛を伝えること」。この二つは、鶏と卵のように、どちらが先にあるものなのでしょうか?
2025年7月、米国ペンシルベニア州立大学の研究チームが、興味深い調査結果を発表しました。
私たちは普段、「愛されているから、愛を返そう(表現しよう)」と考えがちです。しかし、実際のデータの流れを解析すると、その逆である可能性が浮上しました。
つまり、「自分から愛を表現すること」こそが、将来的に「愛されている」と感じるための鍵であるというのです。
この記事では、最新の心理学研究が解き明かした「愛の力学」について、専門的な知識がない方にもわかりやすく解説します。
今回のポイント
- 19歳〜65歳の成人52名を対象に28日間の追跡調査を実施
- 「愛を表現する」行動は、後の「愛されている」実感を高めると判明
- 逆に「愛されている」実感があっても、後の愛情表現には影響しなかった
28日間にわたり成人の「愛の変動」を記録・解析
愛という目に見えない感情を、科学者はどのように測定したのでしょうか。
ペンシルベニア州立大学のリンディ・ウィリアムズ氏らの研究チームは、米国北東部の大学街に住む成人52名(19歳〜65歳、平均年齢30.19歳)を対象に調査を行いました。
日常生活の中でデータを集める
参加者の内訳は、女性が67%、男性が33%でした。また、参加者のうち46名はパートナーがいる状態、6名は独身でした。
研究チームは、28日間にわたり日常生活の中でデータを収集しました。具体的には、「愛を感じた度合い(Felt Love)」と「愛を表現した度合い(Expressed Love)」の変化を記録し続けました。
複雑な時間の流れを「確率微分方程式」で解析
この研究の特筆すべき点は、単なるアンケートの集計ではなく、時間の経過に伴う影響力を分析するために高度な数学モデルを使用したことです。
研究チームは、**ベイズ階層モデルを用いた確率微分方程式**という手法を採用しました。
少し難しい言葉ですが、簡単に言えば「ある時点の感情や行動が、その後の時間の感情や行動にどう影響するか」を、時間の流れに沿って精密に計算する方法です。
これにより、「愛を感じたから表現したのか」、それとも「表現したから愛を感じたのか」という、因果の方向性を統計的に推測することが可能になりました。
「愛情表現」は将来の幸福感を予測する
解析の結果、愛の感じ方と伝え方の間には、明確な「一方通行」の傾向があることが明らかになりました。
発見1:愛を表現すると、後で「愛されている」と感じやすくなる
データは、「愛を表現すること」が、その後の「愛を感じること」に対してプラスの影響(クロス効果)を与えることを示しました。
つまり、パートナーや家族、友人に優しくしたり、言葉で愛を伝えたりする行動をとると、時間が経過した後に、自分自身が「愛されているなぁ」と実感する度合いが高まるのです。
発見2:「愛されている」実感は、行動を予測しない
一方で、逆のパターンは確認されませんでした。
「愛されている」と強く感じていても、それがその後の「愛を表現する行動」の増加には統計的に結びつかなかったのです。
もちろん、その瞬間に「愛を感じる」ことと「愛を表現すること」には相関関係があります(同時に起こることはよくあります)。
しかし、時間の流れで見ると、「受け取った愛が原動力になって行動が増える」という現象は、データ上では明確には確認されなかったのです。
愛は「待つ」ものではなく「始める」もの
なぜ、自分から愛を表現することが、自分が愛を感じることにつながるのでしょうか。
論文の中で研究者たちは、この現象についていくつかの可能性を示唆しています。
一つは、自分からポジティブな行動を起こすことで、周囲との肯定的なつながり(ポジティビティ・レゾナンス)が生まれ、結果として相手からの反応を引き出しやすくなるという可能性です。
また、自分から愛情深く振る舞うこと自体が、自分自身の心理状態を整え、周囲の愛に気づきやすい状態を作っているのかもしれません。
研究の限界点
ただし、この研究には限界もあります。
参加者の80%が白人であり、多くが女性であったこと、また特定の大学街での調査であったことから、文化や環境が異なれば違う結果になる可能性もあります。
それでも、この研究結果は私たちにシンプルな行動指針を与えてくれます。
「もっと愛されたい」「愛を感じたい」と願うとき、相手からのアクションを待つのではなく、まず自分から小さな愛情表現を始めてみることが、最も確実な近道なのかもしれません。
愛は、受け取るのを待つものではなく、自ら起動させるシステムのようです。
参考文献
Williams, L., Kim, S. H., Li, Y., Heshmati, S., Vandekerckhove, J., Roeser, R. W., & Oravecz, Z. (2025). How much we express love predicts how much we feel loved in daily life. PLOS ONE, 20(7), e0323326.


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