「今は仕事や趣味が楽しいし、いい人が現れたら考えようかな」
もしあなたが独身で、このように考えているなら、それは単なる「余裕」ではなく、脳の「バグ」かもしれません。
関西学院大学の西村智氏による2016年の研究報告は、若者の恋愛離れの原因を経済的な理由(お金がない)ではなく、「行動経済学的な心理エラー」にあるとして実験を行いました。
その結果、多くの人が夏休みの宿題を最終日まで放置するのと同じメカニズムで、恋人探しを先送りしている実態が明らかになりました。
今回のポイント
- 若者の未婚化は「お金がない」だけでなく、「目先の自由」を優先する心理が原因
- これはダイエットの失敗と同じ「現在偏重(げんざいへんちょう)」という脳のクセ
- 「クリスマスの孤独」などを具体的に想像させると、人は妥協してでも恋人を作りたくなる
実験:大学生に「クリスマスの予定」を突きつけてみた
この研究では、1年以上恋人がいない大学生・大学院生67名(男子36名、女子31名)を対象に実験を行いました。
参加者をランダムに2つのグループに分け、一方のグループにだけ、ある「心理的な仕掛け(トリートメント)」を行いました。
実験の手順
- 仕掛けありグループ(A):「クリスマス前に好みの異性からデートに誘われる想像」をしてプランを立ててもらい、さらに「周囲の友人が次々とデートの予定を入れていく状況」を想像させました。これは、自分に恋人がいない事実と、機会を逃している現状を突きつける(自覚させる)ためです。
- 仕掛けなしグループ(B):上記の想像は行いませんでした。
- 共通テスト:その後、両グループに5人の異性が質問に答える映像を見せ、「この中の上位何人までなら付き合ってもいいか(交際を承諾するか)」を0〜5人で回答してもらいました。
この「承諾人数」が多いほど、選り好みをせず、恋愛に対して積極的になっている(ハードルを下げている)と判断されます。
結果1:「現実」を直視すると、ストライクゾーンが広がる
実験の結果、事前の仕掛けを行ったグループAは、行わなかったグループBに比べて、「交際をOKする人数」が平均で0.4人分多くなりました。
つまり、「周りはデートしているのに自分は…」という現実を突きつけられると、人は「選り好みしている場合じゃない」と無意識に感じ、恋愛の守備範囲を広げて積極的になることが示されました。
結果2:「先送りタイプ」の人は劇的に行動が変わる
さらに興味深いのは、参加者の性格による違いです。
研究者は事前に参加者の性格を分析し、「将来の大きな利益(結婚や家族)」よりも「目先の小さな利益(気楽な独身生活)」を優先してしまう「現在偏重型(げんざいへんちょうがた)」の人たちを特定していました。
これは行動経済学で「双曲割引(そうきょくわりびき)」と呼ばれる現象に関連しており、「ダイエット中なのに目の前のケーキを食べてしまう」のと同じ心理です。
この「現在偏重型」であり、かつ普段から「恋人探しを先送りしている」自覚がある人たちに限って結果を見ると、驚くべき変化が現れました。
- 仕掛け(現実直視)をされた先送りタイプは、されなかったタイプに比べ、交際OK人数が「1.6人分」も増加しました。
- これは統計的に非常に意味のある差(有意差)であり、他のグループには見られない顕著な変化でした。
つまり、普段「面倒くさいから」と恋愛を後回しにしている人ほど、「このままだとヤバイ」というスイッチが入ると、誰よりも劇的に行動を変える可能性があるのです。
著者の考察:将来の幸せを「今」の快楽が邪魔をする
研究チームは、現代の結婚難や少子化の一因として、この「先送り行動」があると指摘しています。
アンケート調査でも、多くの未婚者が「いずれは結婚したい」と考えている一方で、現状では「独身の気楽さ」や「自由な時間」といった目先のメリットを優先していることが分かっています。
これは、将来得られる「家族を持つ幸せ」という大きな報酬が、遠い未来のことすぎて価値が低く感じられ、目の前の「自由」という小さな報酬の誘惑に負けてしまっている状態です。
著者は、こうした人々に対しては、「いつか結婚したい」という曖昧な希望を持たせるだけでなく、「今行動しないと将来どうなるか」という具体的なイメージ(気づき)を与えることが、重い腰を上げさせる鍵になると結論付けています。
「いい人がいない」のではなく、「今の快適さを手放したくない」だけかもしれません。クリスマスの予定がない自分をリアルに想像してみることが、素敵な出会いへの第一歩になるようです。
参考文献
西村智 (2016). 若者の恋愛離れに関する一考察: 恋人探しにみる先送り行動. 人口学研究, 52, 25-37.


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