1994年、東北福祉大学の堀毛一也氏は、恋愛関係の発展や崩壊が「社会的スキル」にどのような影響を与えるかを調査した研究結果を発表しました。
この研究は、異性とのコミュニケーション能力が、過去や現在の交際経験を通じてどのように洗練されていくのかを明らかにすることを目的としています。
今回のポイント
- 男性は「片思い」の段階から対人スキルが向上し始める。
- 女性は「交際が本格化」してから慎重にスキルを発展させる。
- 過去の失恋から得た自信が、現在のスキルに影響を与えている。
研究の手法
調査は、日本の大学生276名(男子113名、女子163名)を対象に、1993年7月に実施されました。
参加者は、現在の交際相手(恋人、特定の友人、片思いなど)との関係性や、過去に最も印象に残っている失恋体験について回答しました。
同時に、以下の2種類の尺度を用いて、個人のコミュニケーション能力を測定しました。
基本スキル(ENDE2)
自分の感情を伝える「記号化」、相手の意図を読み取る「解読」、感情を調整する「統制」の3つの側面から測定されます。
異性関係スキル(DATE2)
デート場面での具体的な行動を測定します。女子では「自己開示・受容」「積極性」など6因子、男子では「情熱・挑発」「身だしなみ」など7因子が抽出されました。
研究の結果
分析の結果、関係の進展とスキルの高まりには明確な相関があることが数値で示されました。
関係の深さとスキルの向上
男女ともに、関係が深まるほど基本スキルの「記号化」と「解読」の得点が有意に高くなりました(p < .001)。
男性の場合、片思いの相手がいる段階ですでにスキルの得点が高くなる傾向がみられました。
一方で女性は、特定の相手との交際が始まり、その関係の重要性を認識した後にスキルが急速に向上するという違いがありました。
過去の失恋が与える影響
過去の失恋体験も現在のスキルに関わっています。男性では、失恋を通じて得られた「自信」が「記号化(R2 = .0617, p < .03)」や「解読(R2 = .1455, p < .006)」のスキルと有意に関連していました。
女子の場合、全体的に過去の失恋と現在のスキルとの関連性は低いものの、自分が強い愛情を持って挑んだ恋愛での失恋は、その後の「自己開示・受容」スキルの向上(p < .002)に寄与していることがわかりました。
著者の考察
著者の堀毛氏は、これらの性差について、社会的な役割や期待が背景にあると推測しています。
男性はデートの場面でイニシアチブを求められることが多く、片思いの段階から相手にアプローチするために多様なスキルを早めに磨く必要性に迫られます。
対して女性は、相手の特性を慎重に見極め、関係が自分にとって価値があると確信してから、具体的なスキル行動を展開していくプロセスを辿ります。
また、基本スキルが高い人ほど特定の相手と深い関係を築いている傾向から、対人スキルが苦手な人は人間関係全般において困難を抱えている可能性も示唆されています。
まとめ
本研究は、東北福祉大学の堀毛一也氏が大学生276名を対象に行った調査で、恋愛の発展や失恋が社会的スキルの洗練にどう寄与するかを分析したものです。
結果として、男性は片思いの初期段階から能動的にスキルを高めるのに対し、女性は交際が深まり関係を重視し始めてからスキルを習得するという、発達のタイミングの差が明らかになりました。
さらに、過去の失恋から得た教訓や自信が、次の恋愛におけるコミュニケーション能力の基盤となっていることもデータによって裏付けられました。
参考文献
堀毛一也 (1994). 恋愛関係の発展・崩壊と社会的スキル. 実験社会心理学研究, 34(2), 116-128.


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