若者の恋愛離れ:心理学が迫る現状と背景

浜松学院大学の若尾良徳氏は、1980年代後半から2010年代初頭にかけての若者の恋愛行動の変遷と、交際経験のない若者が抱える心理的課題についての展望論文を発表しました。

この研究は、近年の「草食系」や「恋愛ニート」といった言葉に象徴される、異性交際から距離を置く若者の実態を多角的なデータから分析したものです。

今回のポイント

  • 10代の恋愛は2000年代半ばにピークを迎え、その後は低下傾向にある
  • 20代・30代では、交際未経験者の割合が一貫して増加し続けている
  • 「恋愛経験がない=対人能力が低い」という偏見が、本人の自尊心を低下させている
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研究の手法

本論文は、日本性教育協会が実施した「青少年の性行動調査(1974年〜2011年)」や、国立社会保障・人口問題研究所による「出生動向基本調査」などの大規模な統計データを基にしています。

調査対象は、全国の中学生、高校生、大学生、および30代までの未婚男女を含む幅広い層にわたります。

これらの統計に加え、大学生を対象とした心理学実験の結果も参照されています。実験では、人物のイメージ評価(SD法尺度)や、恋愛に対する意識、精神的健康度(抑うつや自尊心)の関連が詳細に分析されました。

研究の結果:数値で見る恋愛のリアル

調査の結果、日本の若者の恋愛状況は、年代によって異なる大きな変化を見せていることが分かりました。

10代に見られる「早期化と沈静化」

高校生のキスの経験率は、1990年代前半まで20%台でしたが、2005年には50%にまで上昇しました。しかし、2011年には再び低下し、1990年代前半の水準に戻っています。

性交経験率も同様で、男子は2005年の26.6%から2011年には15.0%へと約11ポイント減少しました。

20代・30代に進行する「未経験化」

一方で、20代以降では恋愛経験のない人が一貫して増えています。2010年のデータでは、30代未婚男性の約28%、女性の約15%が一度も交際経験がないと回答しました。

30代前半の性交未経験率は、1990年代前半には男性7.8%、女性6.5%でしたが、2010年には男性12.3%、女性8.2%へと上昇しています。

恋愛普及幻想と人物評価

心理学調査では、若者が「周囲は自分よりも恋愛している」と思い込む「恋愛普及幻想」の存在が明らかになりました。

実際には20歳前後で恋人がいる割合は3割程度ですが、学生たちの推測平均は約60%に達していました。

また、恋愛経験がない人物に対して、「内向的」「対人能力が低い」といったネガティブな評価を下す傾向も確認されています。

著者の考察

研究チームは、恋愛未経験の若者が抱える悩みの背景には、社会的な「年齢規範」が強く影響していると推測しています。

「20歳を過ぎたら恋愛経験があって当然」という無言の圧力が、未経験者に「自分は標準から外れている」という感覚を抱かせ、自尊心の低下や抑うつの引き金になっている可能性を示唆しています。

著者は、これまでの心理学が「ある年齢になったら恋愛・結婚するのが当たり前」という単一のモデルで若者を捉えすぎていた点を課題として挙げています。

今後は、恋愛をしない、あるいは開始時期が遅いといった「多様なライフコース」の一つとして、彼らの生き方を理解していく必要があると論じています。

まとめ

この研究は、1970年代から2011年までの統計データと心理尺度を用い、日本の若者の異性交際状況を分析したものです。10代の恋愛ブームが沈静化する一方で、20代・30代では未経験化が進行している実態が浮き彫りになりました。

さらに、社会に蔓延する「恋愛経験がない人へのネガティブな偏見」が、若者の精神的健康を脅かしている現状を明らかにしました。研究者は、恋愛を人生の必須課題とするのではなく、多様なライフスタイルの一つとして認める視点の重要性を強調しています。

参考文献

若尾良徳 (2014). 恋愛に関する心理学研究の展望 – 異性交際から疎外された若者へのライフコースからのアプローチ – 浜松学院大学研究論集, 10, 59-77.

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