2013年9月、イギリスのブルネル大学心理学部に所属するタラ・C・マーシャル氏らの研究チームは、失恋後の個人の成長に関する調査結果を発表しました。
研究チームは、恋愛における「愛着スタイル」の違いが、失恋の痛みやその後の立ち直りにどう影響するかを分析しました。
その結果、恋人に対する執着が強い「不安型」の人ほど、激しい苦痛を感じる一方で、人間的な成長を遂げやすいことが明らかになりました。
今回のポイント
- 不安型愛着スタイルは失恋の苦痛が強いが、それが後の成長を促進する。
- 回避型愛着スタイルは感情を抑制するため、苦痛は少ないが成長も乏しい。
- 「反芻(思い出し)」や「新しい恋」は、時間を置くことで成長の助けとなる。
研究の手法
本研究では、過去に経験した「最も辛い失恋」について振り返ってもらう形式で、2つの調査が行われました。
参加者はオンラインの心理学調査サイトを通じて募集されました。
調査1:愛着スタイルと成長の関連
最初の調査には411名が参加しました。
内訳は女性273名、男性136名(不明2名)で、平均年齢は23.47歳でした。
参加者の国籍はアメリカが47%、イギリスが26%を占めていました。
研究チームは以下の指標を用いてデータを収集しました。
- 愛着スタイル:「ECR-R」という質問紙を用い、相手に見捨てられることを恐れる「愛着不安」と、親密さを避ける「愛着回避」の傾向を測定しました。
- 失恋の苦痛:別れた直後の感情的・身体的な苦痛の強さを測定しました。
- 個人的成長:「PTGI(心的外傷後成長尺度)」を用い、失恋を機に新しい興味を持ったか、人間として強くなったかなどを測定しました。
調査2:プロセスの詳細分析
続く調査2では、465名の新たな参加者(女性385名、男性75名、不明5名、平均年齢21.36歳)を対象としました。
調査1の項目に加え、成長に至るプロセスを解明するために以下の項目が追加されました。
- 反芻(はんすう):別れた相手や過去の出来事を繰り返し考えること。建設的な「内省」と、否定的に思い悩む「 brooding(くよくよ考えること)」に分類して測定しました。
- リバウンド傾向:新しいパートナーを見つけたり、カジュアルな性的関係を持ったりする頻度を測定しました。
また、両方の調査において、失恋から経過した時間(1年未満か、それ以上か)による影響の違いも分析されました。
研究結果
愛着不安が高い人(不安型)の結果
調査1および調査2の双方で、愛着不安のスコアが高い人は、失恋直後の苦痛(Breakup Distress)を強く感じていました。
統計的な分析(構造方程式モデリング)の結果、この「強い苦痛」が媒介となり、結果としてより大きな「個人的成長」につながっていることが示されました。
具体的には、愛着不安は失恋の苦痛と正の相関(β=.44, p<.0001)を示しました。
さらに調査2では、不安型の人が経験する成長の背景に、以下のプロセスがあることが判明しました。
- 反芻の影響:不安型の人は過去を繰り返し考える傾向(くよくよ考えること)が強く、これが苦痛を高めますが、同時に成長を促進する要因となっていました。
- 新しいパートナー(リバウンド):不安型の人は、新しい相手を見つけるなどの行動(リバウンド)を通じて成長していることが示されました。
特に、失恋から時間が経過している(中央値以上)場合において、この傾向が強く見られました。
愛着回避が高い人(回避型)の結果
一方で、親密さを避ける「愛着回避」のスコアが高い人は、失恋後の苦痛が低い傾向にありました(β=-.19, p<.0001)。
しかし、苦痛を感じないことがマイナスに働き、結果として個人的成長も低いことが示されました。
回避型の人は、過去を振り返る「内省」や「くよくよ考えること」のスコアも低く、これらが成長の機会を阻害しているとデータは示唆しています。
時間の経過による違い
失恋からの期間が「短いグループ」と「長いグループ」を比較した分析も行われました。
その結果、「くよくよ考えること(Brooding)」が成長につながるという経路は、失恋から時間が経過したグループでのみ有意(β=.45, p<.01)でした。
失恋直後の混乱期においては、過去を振り返ることが必ずしも成長には直結していないことが示唆されました。
著者の考察
研究チームは、この結果について、愛着システムの違いに基づいた考察を行っています。
不安型の人は、愛着システムが「過活性化(Hyperactivation)」しやすい傾向にあります。
これにより、別れた後も感情的な苦痛が持続し、元パートナーへの執着や思考の反芻を繰り返します。
著者は、この苦痛を伴う認知プロセス(考え続けること)こそが、失恋の意味を理解し、自己を再構築する触媒になっていると推測しています。
一方で、回避型の人は愛着システムを「不活性化(Deactivation)」させ、感情や記憶を抑制する防衛機制をとります。
これは日常機能の回復は早いものの、過去の経験から学び、自己を成長させる機会を失わせている可能性があると著者は指摘しています。
また、「リバウンド(新しい相手)」が不安型の人にとって成長の要因となっていた点について、著者は以下のように考察しています。
新しい関係に安心感を求めることで、元パートナーへの執着から解放され、自己改善や対人スキルの向上にエネルギーを向ける余裕が生まれている可能性があります。
研究の限界点として、本調査が過去を振り返る形式(回顧的調査)であったため、記憶のバイアスが含まれる可能性があることにも言及されています。
結び
失恋の痛みを深く味わうことこそが、結果としてその後の人生における大きな個人的成長につながることが、データによって示唆されました。
参考文献
Marshall, T. C., Bejanyan, K., & Ferenczi, N. (2013). Attachment Styles and Personal Growth following Romantic Breakups: The Mediating Roles of Distress, Rumination, and Tendency to Rebound. PLoS ONE, 8(9), e75161.


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