2023年3月、スペインのナバラ大学をはじめとする国際研究チームは、夫婦関係の質と「自己分化(Differentiation of Self)」の関連性に関する調査結果を発表しました。
この研究は、スペインとアメリカのカップルを対象に数年間にわたる追跡調査を行い、個人の精神的な自立度がパートナーシップにどのような影響を与えるかを分析したものです。
今回のポイント
- 「自己分化(精神的自立)」が高い夫婦ほど、関係の質が高くなることが判明。
- 自己分化は、相手に見捨てられる不安(愛着不安)を低下させる効果があった。
- 調査期間中、参加者の自己分化度は男女ともに自然と高まっていた。
研究の手法:国境を越えた長期追跡
本研究には、合計958名の個人(479組のカップル)が参加しました。
内訳は、スペインのカップル137組と、アメリカのカップル342組です。
参加者の平均年齢は43歳前後で、結婚期間は平均約18年から20年という、比較的成熟した関係にあるカップルが中心でした。
「自己分化」とは何か
研究チームが注目した「自己分化(DoS)」とは、家族システム理論に基づく概念です。
これは、「感情と理性のバランスをとる能力」や、「親密な関係の中でも自分を見失わず、自律性を保つ能力」を指します。
調査のデザイン
研究は、一度きりのアンケートではなく、数年の間隔を空けて2回データを収集する「縦断的研究」として実施されました。
アメリカのデータは4年間隔、スペインのデータは7年間隔で収集されています。
研究チームは、以下の項目について質問紙を用いて測定を行いました。
- 自己分化度:感情的反応性や感情的遮断(心を閉ざすこと)の程度。
- 愛着スタイル:不安型(見捨てられ不安)と回避型(親密さの回避)。
- 関係の質と安定性:満足度や別れを考えた頻度など。
- ストレスフルなライフイベント:失業や親族の死など、外部からのストレス要因。
分析にあたっては、夫婦それぞれのスコアを合算した「共有された現実(Shared Reality)」という指標を用い、夫婦を一つの感情的ユニットとして捉える手法が採用されました。
結果:自立がもたらす安心感
自己分化と関係の質の向上
解析の結果、スペインとアメリカの両方のグループにおいて、自己分化のレベルが高いほど、数年後の「関係の質」が高くなることが示されました。
統計的にも有意な関連が確認されており(p < .001など)、これは外部的なストレスト(ライフイベント)の影響を調整した後でも変わらない結果でした。
愛着不安の減少
特に顕著だったのは「愛着不安」への影響です。
自己分化度が高いカップルは、時間の経過とともに「相手に嫌われるのではないか」という不安型愛着のスコアが低下する傾向にありました。
スペインの男性・女性、アメリカの男性・女性のすべてにおいて、この関連性は統計的に有意でした。
文化による違い
一方で、国による違いも見られました。
アメリカのカップルでは、自己分化が高いことが「愛着回避(親密さを避ける傾向)」の低下や、「関係の安定性(別れを考えないこと)」の向上とも強く関連していました。
しかし、スペインのカップルにおいては、長期的な視点での「愛着回避」や「関係の安定性」に対する自己分化の予測効果は、統計的に有意なレベルには達しませんでした。
時間の経過による変化
興味深い発見として、夫婦の自己分化度は固定されたものではありませんでした。
調査期間を通じて、スペインおよびアメリカの男女ともに、自己分化のスコアは有意に上昇しました。
例えばアメリカの女性の場合、t値 -5.56 (p < .001) という数値で有意な上昇が確認されています。
著者の考察
研究チームは、自己分化がカップルの長期的な相互理解と親密さにとって中心的役割を果たすと考察しています。
自分の感情を適切に制御し、感情的な洪水(圧倒されること)を避けられる個人は、パートナーとの関係においても脅威を感じにくく、より安定した愛着を形成できると考えられます。
また、アメリカとスペインで結果の一部に違いが出た点について、著者は「文化的な背景」の可能性を示唆しています。
スペインのような集団主義的傾向が比較的強い文化では、個人の自律性(自己分化)が、親密さの回避行動に対してアメリカほど直接的な影響を与えない可能性があると推測しています。
この研究の限界点として、すべてのデータが自己報告(アンケート)に基づいている点や、調査間隔が国によって異なっていた点が挙げられています。
結び
パートナーとの絆を深めるためには、二人の関係性だけでなく、個々人が精神的に自立し成長していくプロセスが重要であることが示唆されました。
参考文献
Rodriguez-González, M., Bell, C. A., Pereyra, S. B., Martínez-Díaz, M. P., Schweer-Collins, M., & Bean, R. A. (2023). Differentiation of self and relationship attachment, quality, and stability: A path analysis of dyadic and longitudinal data from Spanish and U.S. couples. PLoS ONE, 18(3), e0282482.


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