恋愛研究の偏りと新たな「報告基準」

オーストラリア国立大学とポーランドのヴロツワフ大学の研究チームは、2023年5月、恋愛の生物学的メカニズムを調査した過去42件の研究を詳細に分析し、現在の恋愛科学におけるサンプルの偏りと報告基準の課題を発表しました。

今回のポイント

  • 既存の恋愛研究の多くが「西洋の、高学歴で、裕福な、民主主義国家」の若者に偏っています。
  • 研究によって「愛」の測定基準が異なり、結果を単純に比較することが困難な現状があります。
  • 正確な科学的理解のため、将来の研究には関係の満足度や性生活の頻度などの詳細な報告が求められます。
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世界中の恋愛研究42件を徹底レビュー

研究チームは、2021年までに発表されたロマンチックな愛に関する生物学的研究を収集しました。分析の対象となったのは、脳画像研究が31件、内分泌(ホルモン)研究が9件、遺伝子研究が1件、そして脳画像と遺伝子を組み合わせた研究が1件の、計42件です。

これらの研究に含まれる「恋をしているグループ」の参加者は、合計で1,000名以上にのぼります。研究チームは、それぞれの論文が、参加者の性別、年齢、愛の深さ、交際期間、そして社会経済的な背景をどのように記載しているかを精査しました。

このレビューの目的は、既存の研究がどれだけ「一般の人々」を代表しているか、また、異なる研究同士で結果を正しく比較できる状態にあるかを明らかにすることでした。

データで浮き彫りになった「報告のバラつき」

分析の結果、恋愛科学の信頼性を揺るがしかねないいくつかの定量的な事実が判明しました。

1. 愛の測定方法の不一致

情熱的な愛を測る「情熱的愛尺度(PLS)」は27件の研究で使用されていましたが、研究によって30項目のフルバージョンと15項目の短縮バージョンが混在していました。また、愛の定義として「相手のことを考えている時間」を用いた研究も4件あり、尺度間の相関関係は $r = 0.49$ から $0.79$ と幅がありました。

2. 地理的情報の欠如

脳画像研究のうち、研究が行われた国を明記していたのはわずか16件でした。多くの研究が所属大学や倫理委員会の情報から推測するしかなく、データの一般性を判断する材料が不足しています。

3. 偏ったサンプル層

多くの研究が大学の学生を便宜的に募集してサンプルとしており、結果が特定の年齢層(主に20代前後)や教育レベルに依存している可能性が極めて高いことが示されました。

著者の考察:真の「愛の科学」を目指して

研究チームは、現在の恋愛研究が「WEIRD(西洋の、高学歴で、産業化され、裕福で、民主主義的な社会)」のサンプルに過度に依存していると警鐘を鳴らしています。このような偏りは、恋愛という普遍的な現象を、一部の特定の集団だけの性質として誤解させるリスクがあります。

著者は、将来の研究がより比較可能で、一般化しやすいものになるために、新たな報告フレームワークを提案しています。これには、生物学的な性別や年齢だけでなく、関係の満足度、未受諾の愛(片思いなど)の種類、性生活の頻度、世帯収入、さらには女性の場合は月経周期といった、生物学的・社会的に重要な情報の開示が含まれます。

研究チームは、「詳細なサンプルの特徴を報告することは、研究の限界を補い、科学的な発見を社会全体に適応させるための第一歩である」と推測しています。

恋愛のメカニズムを真に理解するためには、単なるデータの収集を超えた、多様で透明性の高い報告基準が不可欠です。

参考文献

Bode, A., & Kowal, M. (2023). Toward consistent reporting of sample characteristics in studies investigating the biological mechanisms of romantic love. Frontiers in Psychology, 14, 983419. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.983419

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