身体の接触で「心の距離」が縮まる仕組み

アメリカのLiberos(リベロス)などの研究チームは、2021年3月に身体的な親密な接触が対人関係の親密度に与える影響についての調査結果を発表しました。この研究では、言葉を介さない接触だけで「自分と相手が重なり合う感覚」がどのように変化するかを分析しています。

今回のポイント

  • 15分間の身体的な接触により、恋人同士だけでなく非恋愛関係のペアでも心の距離が縮まりました。
  • 意外にも、恋愛関係にないペアの方が、接触後の「自分と相手の境界が曖昧になる感覚」が大きく増加しました。
  • 性的な興奮の強さに関わらず、安全で構造化された接触体験そのものが心理的な絆を深める要因となっています。
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恋愛関係の有無による親密度の変化を測定

研究チームは、125組のペア(合計250名、主に40代の男女)を対象に実験を行いました。参加者は、現在恋愛関係にあるペア(ロマンティック・パートナー)と、特定の目的のために接触の練習を共に行う恋愛関係にないペア(ノン・ロマンティック・パートナー)に分けられました。

実験では、「オーガズミック・メディテーション(OM)」と呼ばれる15分間の構造化された接触方法を用いました。これは、事前に合意された手順に従い、一方が他方に対して性的な部位(クニヌルス周辺)を優しく撫でるという、言葉によるやり取りを最小限に抑えた手法です。安全性と予測可能性を確保するため、医療用の手袋を使用するなどのルールが徹底されました。

研究では、接触の前後で「自己と他者の重なり尺度(IOS)」を用いて、相手との心理的な距離を測定しました。この尺度は、2つの円が重なり合う7段階の図から、現在の自分たちの関係に最も近いものを選ぶ形式です。

非恋愛関係のペアでより高い親密度の上昇を確認

統計解析の結果、ペアの種類に関わらず、接触後に相手をより身近に感じる「親密度」が有意に向上しました($t(205) = 8.3, p < .001$)。効果の大きさを示すヘッジズのgは0.38でした。

特に興味深いのは、恋愛関係の有無による増加量の違いです。もともと親密度が高い恋愛関係にあるペアに比べ、恋愛関係にないペアの方が、接触によって生じた親密度の上昇率が有意に高いことが明らかになりました($t(205) = 3.6$)。

性的興奮度については、接触後にすべての参加者で平均2.8から3.5へと上昇しましたが、この興奮の度合いは恋愛関係の有無で差は見られませんでした。つまり、非恋愛関係のペアで親密度が大きく上がったのは、性的興奮の違いによるものではないことがデータで示されています。

愛着スタイルと親密度の関係

また、恋愛関係にないペアは、恋愛関係にあるペアに比べて、他人との親密さを避ける「回避傾向」や、関係に不安を感じる「不安傾向」が有意に高い傾向がありました。しかし、これらの愛着スタイルに関わらず、接触後の親密度の向上は確認されました。

著者の考察:強烈なポジティブ体験が絆を作る

著者は、この結果について「自己拡張理論」に基づいて考察しています。人間は、強烈でポジティブな体験を誰かと共有することで、相手を自分の一部として取り込み、心理的な境界線を広げる性質があります。恋愛関係にないペアにとっては、このような親密な接触が極めて斬新で強烈な体験であったため、親密度の上昇がより顕著に現れたと推測しています。

また、これまでの臨床現場では、非恋愛関係での親密な接触は、しばしば有害であるとみなされてきました。しかし、今回のデータは、安全で合意に基づいた接触であれば、言葉によるコミュニケーションが苦手な人々にとっても、他者との繋がりを感じる有効な手段になり得る可能性を示唆しています。

研究チームは、この効果が一時的なものか、あるいは長期的な関係の質に寄与するのかについては、今後のさらなる研究が必要であるとしています。

私たちは言葉以外の方法でも、身体的な共有体験を通じて他者との心の壁を低くすることができるのかもしれません。

参考文献

Prause, N., Siegle, G. J., & Coan, J. (2021). Partner intimate touch is associated with increased interpersonal closeness, especially in non-romantic partners. PLOS ONE, 16(3), e0246065. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0246065

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