一途なマウスの「浮気」が絆に与える影響

アメリカのウィスコンシン大学マディソン校の研究チームは、2018年に一途な「カリフォルニアマウス」を対象とした実験結果を発表しました。この研究では、マウスがペアを組む過程や、別の相手と過ごす「不貞(浮気)」の試練が、その後のコミュニケーションや繁殖にどのような影響を与えるかを調査しました。

今回のポイント

  • マウスの鳴き声(超音波)の種類によって、仲の良さや攻撃性を明確に区別できることが判明しました。
  • 1週間の「浮気」体験は、元のパートナーとの再会直後の関係を一時的に不安定にさせます。
  • 再会時の攻撃性が高いカップルほど、最終的に子供を産み育てる成功率が低下する傾向があります。
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一途なマウスに与えられた「浮気の試練」

研究チームは、55組(合計110匹)のカリフォルニアマウスを使用しました。このマウスは厳しい一夫一婦制を維持することで知られています。実験は28日間にわたる長期的な観察として行われ、7日ごとに特別なマイクを用いてマウスの超音波(USV)と行動を記録しました。

実験14日目に、研究チームはマウスを以下の4つのグループに分け、1週間の「社会的な課題(試練)」を与えました。

実験のグループ分け

1. オスの不貞群:オスを元のパートナーから離し、見知らぬ別のメスと1週間同居させる。
2. メスの不貞群:メスを元のパートナーから離し、見知らぬ別のオスと1週間同居させる。
3. 分離群(コントロール):カップルを離し、それぞれ1匹ずつで1週間飼育する。
4. 非分離群(コントロール):カップルをそのまま同居させ、何もしない。

21日目に全てのペアを再会させ、その際の反応を詳細に分析しました。さらにその後、出産までの期間や産まれた子供の数、生存率、父親の育児行動(子供をなめる、温めるなど)を測定しました。

絆の形成と「鳴き声」の変化

まず、カップルが成立する初期段階(0日目から7日目)で、行動と鳴き声に顕著な変化が現れることが確認されました。カップルが成立するにつれ、マウスが相手を追いかけたり格闘したりする「攻撃行動」が有意に減少しました(P=0.001)。

これと連動して、鳴き声の種類も変化しました。攻撃的な場面で発せられる「バーク(吠え声)」が減少し、親密な行動と関連する「単純スイープ」や「持続的発声(SV)」が増加しました(バーク減少 P=0.03、単純スイープ増加 P<0.001、SV増加 P=0.05)。

研究チームは、この超音波の変化が、ペアの間の絆の強さを反映していることを突き止めました。特にバーク音は攻撃行動と正の相関(r=0.22)を示し、単純スイープ(r=0.49)や持続的発声(r=0.44)は親和的な行動(相手に近づく、嗅ぐなど)と正の相関を示しました。

再会直後のギクシャク感と将来の育児

「浮気の試練」を経てパートナーと再会した21日目、マウスたちの関係には一時的な変化が生じました。不貞を経験したグループ(オスまたはメスが別の相手と過ごした群)では、以前と比較して攻撃行動とバーク音が有意に増加しました(攻撃 P=0.05、バーク P=0.018)。

一方で、浮気を経験していない対照群(分離群・非分離群)では、再会時に親密な行動(親和行動)と持続的発声(SV)が有意に増加していました(親和 P=0.048、SV P=0.02)。これは、試練を経験したペアでは、本来進むべき親密度の上昇が妨げられたことを意味します。

繁殖の成功についても重要なデータが得られました。再会した際に攻撃行動が見られたペアは、攻撃が見られなかったペアに比べて、最終的に子供を産み育てられる確率が有意に低いことが示されました(P=0.003)。

さらに、浮気体験をしたグループにおいて、再会時の親密度が高いペアほど、産まれた子供に対して父親がすぐに接近し、育児を開始するまでの時間が短いという結果も出ました(相関係数 r=-0.59、P=0.025)。

絆の「回復力」が将来を左右する

著者は、カリフォルニアマウスのような一夫一婦制の動物であっても、社会的な試練によって一時的に関係が損なわれる可能性があると述べています。不貞体験は再会時の攻撃性を高め、親和的なコミュニケーションの成長を停滞させます。

ただし、これらの影響は一時的なものでした。実験28日目には、多くのペアが通常の安定した関係に戻っていました。著者は、ペアごとに試練に対する「回復力(レジリエンス)」に差があり、この力が将来の子育ての成功を左右するという見解を示しています。

また、再会時の攻撃性のレベルが将来の出産や育児の失敗を予測する因子となる点も注目されます。鳴き声の変化をリアルタイムで観察することで、そのカップルの関係の健全性や将来の繁殖成功率を把握できる可能性を示唆しています。

動物の絆の質は、単に一緒にいる時間の長さではなく、外部の試練にどれだけ適応できるかによって決まることが示されました。

参考文献

Pultorak, J. D., Alger, S. J., Loria, S. O., Johnson, A. M., & Marler, C. A. (2018). Changes in Behavior and Ultrasonic Vocalizations During Pair Bonding and in Response to an Infidelity Challenge in Monogamous California Mice. Frontiers in Ecology and Evolution, 6, 125. https://doi.org/10.3389/fevo.2018.00125

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