声と肌で選ぶ?マウスと人間の「恋人選び」の科学

2022年9月20日、ポルトガルのシャンパリモー財団の研究チームは、動物や人間がパートナーを選ぶ際に、声や触れ合いといった感覚が脳でどのように処理されるかをまとめた最新の研究報告を学術誌「Frontiers in Neural Circuits」で発表しました。

これまでパートナー選びの研究は、人間では「視覚」、ネズミでは「嗅覚」が重視されてきました。しかし今回の報告により、聴覚や触覚といった他の感覚も、最終的な意思決定において極めて重要な役割を果たしている実態が明らかになりました。

今回のポイント

  • パートナー選びは、複数の感覚が脳内で統合される「五感のアンサンブル」である
  • マウスの実験では、オスの歌(超音波)が多いほどメスの出産数が有意に増加した
  • 人間の声の変化もパートナーへの関心を示す重要なシグナルとして機能している
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研究の手法

研究チームは、マウス、ラット、人間を対象とした過去の膨大な行動データと脳科学研究を精査し、配偶者選択における「多感覚統合(マルチセンサリ・インテグレーション)」の仕組みを分析しました。

具体的には、マウスが発する超音波(USV)の頻度と繁殖成功率の関係、ヒゲ(ウィスカー)を通じた接触が脳の「体性感覚野」に与える影響、そして人間の「声の高さ(ピッチ)」の変化がパートナー選びにどう関わっているかを調査しました。

また、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)や電気生理学的記録を用いて、触れ合いや声の情報が脳の「島皮質(とうひしつ)」や「扁桃体(へんとうたい)」でどのように処理され、最終的な「好き」という判断に結びつくのかを系統的に整理しました。

結果(数値と事実)

1. 超音波の歌と繁殖成功率

マウスの実験において、オスの歌(超音波シラブル)がメスの生理状態に直接影響を与えることが示されました。オスの発するシラブル数が多いほど、メスの出産する子どもの数が増えるという強い相関が確認されています。

このデータにおける相関係数は $r_s = 0.787$ であり、統計的な有意性は $p < 0.0001$ という非常に高い数値を示しました。これは、聴覚刺激が単なるコミュニケーションを超えて、繁殖の結果を左右するほど強力であることを意味しています。

2. 脳細胞による「社会的な接触」の識別

脳の神経細胞が、物体への接触とパートナーへの接触を明確に区別していることも数値で示されました。脳の触覚を司る部位(バレル皮質)にある神経細胞のうち、約 40% が「社会的な接触」によってのみ活動を変化させています。

さらに、感情や他者への関心を司る「島皮質」では、約 24% の神経細胞が、相手の体のどの部位を探索しているか(鼻なのか体なのか等)を細かくコードしていることが明らかになりました。

3. 人間の「声のピッチ」の変化

人間を対象としたスピードデートの調査では、相手を「魅力的だ」と感じた瞬間に声が変化することが実証されています。男性は、交際を希望する魅力的な女性と話すとき、無意識に声のトーン(ピッチ)を下げる傾向があります。

一方で女性は、意中の相手に対して声のピッチを高くし、かつ話し方に抑揚(バリエーション)をつけることが判明しました。これは、人間も聴覚情報をパートナーの価値を測る指標、あるいは自身の魅力を伝えるシグナルとして活用している証拠です。

著者の考察・結論

研究チームは、パートナー選びが特定の感覚(視覚や嗅覚)だけで決まるのではなく、脳内の複数の「ハブ(中継地点)」で情報が統合されるプロセスであると推測しています。

特に「島皮質」や「扁桃体」が、視覚・嗅覚・聴覚・触覚のすべてを受け取り、それを統合して一つの「価値判断」を下している可能性が高いと結論づけています。たとえば、マウスでは「尿の匂い」と「超音波の歌」が同時に提示されたときにのみ、オスの求愛意欲が最大化することが確認されました。

著者は、これまでの研究が「目に見える美しさ」や「匂い」に偏っていたことを指摘した上で、触れ合いの質や声の響きがどのように脳を動かしているのかを解明することが、生物の進化を理解する鍵になるという可能性を示唆しています。今後の課題として、実際の性行動中における脳回路の相互接続をより精密に追跡する必要があるとしています。

パートナー選びという複雑な決断は、私たちの脳が持つ「五感を一つに束ねる力」によって支えられているといえます。

参考文献

Lenschow, C., Mendes, A. R. P., & Lima, S. Q. (2022). Hearing, touching, and multisensory integration during mate choice. Frontiers in Neural Circuits, 16, 943888. https://doi.org/10.3389/fncir.2022.943888

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