2023年11月、イスラエルのテルアビブ大学に所属するユージーン・タルタコフスキー博士は、パートナーを探している若者がどのような動機で恋愛を求め、どのような相手を理想とするのかを解明した研究成果を発表しました。
この研究は、イスラエルに住む18歳から30歳の男女1,121名を対象に実施されました。人はなぜ恋愛をするのかという根本的な問いに対し、個人の価値観や文化的な背景がどのように影響しているのかを詳細なデータから明らかにしています。
今回のポイント
- 恋愛の動機は「愛とケア」「性と冒険」「地位と資源」「家族と子供」の4つに集約される。
- 男女を問わず、最も強い動機は「愛とケア」であり、理想の条件は「外見の魅力」であった。
- 個人の一般的な価値観(自由や伝統など)が、恋愛の動機を通じて理想の相手選びに直結している。
研究の手法
研究チームは、イスラエルのコミュニティから1,121名の参加者を募りました。参加者の内訳は男性が40%、女性が60%で、平均年齢は24.3歳です。参加者の79%は大学卒、または大学生という高学歴なグループでした。
調査当時、参加者は全員パートナーがいない状態でしたが、そのうちの約3分の2には過去に交際経験がありました。研究では、以下の3つの要素を測定するための質問票を用いてデータを収集しました。
1. 個人の価値観(PVQ-R)
心理学者のシュワルツが提唱した理論に基づき、人生において何を重視するかを測定しました。これには「自己超越(他者への配慮)」「自己増進(権力や達成)」「変化への開放性(自由や刺激)」「保守(伝統や安全)」といった19種類の価値観が含まれます。
2. 恋愛の動機尺度
本研究のために新たに開発された尺度です。文学的なレビューや約80名の若者へのインタビューを基に、73の質問項目で構成されています。これにより、14種類の基本的な動機を測定し、さらにそれらを4つの大きなグループ(クラスター)に分類しました。
3. 理想の相手の条件
「社会的な地位」「外見の魅力」「自分との類似性」の3つの特徴について、相手を探す際にどの程度重要視するかを6段階で評価してもらいました。
結果:恋愛を求める4つの理由
分析の結果、若者が恋愛を求める動機は、互いに矛盾したり補完し合ったりする動的な構造(サーカンプレックス・モデル)を持っていることが確認されました。
1. 4つの主要な動機
研究では、14の細かな動機が以下の4つのグループにまとまることが示されました。
・愛とケア:他者を思いやること、愛されていると感じること、情緒的な支えを得ること。
・性と冒険:性的な満足、孤独からの回避、心理的な成長。
・地位と資源:社会的な成功、経済的な利益、親からの自立、周囲からの尊敬。
・家族と子供:家庭を築くこと、子供を育てること。
2. 動機の重要度と男女差
男女ともに、「愛とケア」が最も重要な動機としてランク付けされました。2位は「性と冒険」、3位は「地位と資源」、そして意外にも「家族と子供」が最も低い優先順位となりました。
性別による違いも見られました。男性は女性よりも「愛とケア(β = -0.12)」および「性と冒険(β = -0.06)」を重視する傾向がありました。一方で、女性は男性よりも「家族と子供(β = 0.08)」を重視していました。また、女性は男性に比べて、パートナーの「社会的な地位」を有意に高く評価していました(β = 0.27)。
3. 価値観と理想の条件のつながり
理想の相手に何を求めるかは、その人が持つ価値観と恋愛の動機によって予測できることが統計的に示されました(R二乗値はステータスで21%、魅力で11%、類似性で11%)。
・外見の魅力:男女ともに最も重視された条件です。「性と冒険」の動機が強い人ほど、外見を重視する傾向がありました(β = 0.17)。
・社会的な地位:「自己増進」の価値観を持つ人や、「地位と資源」を求めて恋愛をする人がこの条件を重視していました。
・自分との類似性:「保守」的な価値観を持つ人が重視する一方で、「愛とケア」を純粋に求める人は、自分と異なる相手でも受け入れる傾向がありました。
著者の考察:恋愛における選択と妥協
タルタコフスキー博士は、恋愛の動機が「愛とケア」対「地位と資源」、「性と冒険」対「家族と子供」という2つの対立軸で構成されている点に注目しています。これは、人は恋愛においてすべての目標を同時に達成することは難しく、矛盾する目標の間で選択や妥協を行っていることを示唆しています。
例えば、「地位と資源」を求めてパートナーを道具的に利用しようとする動機は、「愛とケア」という純粋な情緒的動機と強い負の相関(r = -0.80)を示しました。著者は、パートナーを通じて自分の社会的地位を高めようとする心理と、相手を無条件にケアしようとする心理は、基本的には両立しにくいものであると推測しています。
また、今回の調査で「家族と子供」の動機が低かった点について、著者は「調査対象が現在パートナーを探している段階の若者であり、恋愛を未来の計画としてではなく、現在の楽しみや情緒的な支えとして捉えているためではないか」と考察しています。
さらに、博士は個人の一般的な人生の価値観が、直接的あるいは恋愛の動機というフィルターを通じることで、理想のパートナー選びに反映されていることを証明しました。これは、単なる好みの問題ではなく、個人の深い心理的な目標が恋愛行動を規定していることを意味します。
研究の限界として、特定の年齢層やイスラエルという文化圏に限定されていることが挙げられています。今後は、年齢による変化や他の文化圏でも同様の構造が見られるかを調査する必要があるとしています。
恋愛の動機を知ることは、自分自身が人生において何を大切にしているかを理解することにつながります。
参考文献
Tartakovsky, E. (2023). The psychology of romantic relationships: motivations and mate preferences. Frontiers in Psychology, 14, 1273607. doi: 10.3389/fpsyg.2023.1273607


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