愛を長続きさせる「努力」の数式

2021年12月、スペインのマドリードにあるCEUサンパブロ大学とコンプルテンセ大学の研究チームが、ある興味深い数理モデルを発表しました。

彼らは、長続きする恋愛関係を「制御工学」の問題として捉え、カップルが永遠に一緒にいるために必要な「努力の量」を計算しました。

恋愛感情は時間とともに冷めるものですが、それをどう維持するか。

多くの人が感覚的に悩むこの難問に、数学的な答えが出されています。

今回のポイント

  • 愛は放置すれば必ず減衰する(熱力学第二法則)
  • 関係維持には「自分が快適なレベル」以上の努力が必須
  • 危機的状況では「恋愛上手」な側の負担が激増する
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研究の手法:恋愛を「微分ゲーム」として解く

研究者であるホルヘ・エレーラ・デ・ラ・クルス氏とホセ・マヌエル・レイ氏は、人間の被験者を集める代わりに、高度なコンピュータシミュレーションを行いました。

彼らが用いたのは「微分ゲーム理論」と呼ばれる数学的手法です。

これは、互いに影響し合う二人の意思決定者が、時間の経過とともにどのように最適解(もっとも幸福度が高くなる行動)を選ぶかを分析するものです。

研究チームは、以下の要素を数式に組み込みました。

1. 感情(Feeling):
関係の質や満足度。これは時間経過とともに自然に減少する(減衰係数 $r$)と定義されました。

2. 努力(Effort):
関係を維持するために各パートナーが投じるエネルギー。これは感情の減衰を食い止める唯一の制御変数です。

3. 効率性(Efficiency):
「1の努力」がどれだけ「愛」に変換されるかの能力値。ここには個人差があります。

このモデル上で、数十年という長い期間(無限の時間軸)において、二人が別れずに幸福度を最大化し続けるための「最適努力量」を算出しました。

結果:愛の維持に必要な「コスト」の正体

1. 努力の「ギャップ」が存在する

シミュレーションの結果、関係を良好に維持するための最適な努力レベルは、常に個人の「好ましい努力レベル(負担を感じないレベル)」を上回ることが判明しました。

具体的には、たとえ関係が安定期に入ったとしても、パートナーは常に「少し無理をしている」状態を維持しなければなりません。

「自然体でいられる関係」こそが理想とされがちですが、数学的には、何の負荷も感じない「自然体」のままでは、感情の減衰(エントロピーの増大)に勝てないことが示されています。

2. 「魔の7年目」の克服法

研究では、結婚生活で離婚リスクが高まるとされる「7年目の浮気(Seven-year itch)」のような外部ストレスもシミュレーションされました。

関係に亀裂が入るようなショックが起きた際、幸福度は一時的に急落します。

ここで関係を修復し、元の軌道に戻すためには、平常時をはるかに超える追加の努力が必要となります。

シミュレーションによると、この「追加努力」は一瞬で終わるものではなく、長期間にわたって継続する必要があります。

3. 「恋愛上手」なパートナーの負担

二人の「効率性(努力を愛に変える能力)」が異なる場合の結果も出ています。

効率性が高い(少ない言動で相手を喜ばせられる)パートナーがいると、もう一方は努力をサボりがちになります。

さらに危機的状況においては、効率性が高い側のパートナーが、関係修復のための努力の大部分を背負い込むことになります。

つまり、「器用な側」が疲弊しやすい構造が数学的に証明されました。

アクションプラン:明日からの関係構築にどう活かすか

この数学的モデルが示す事実は、私たちの日常生活に具体的な指針を与えてくれます。

1. 「楽な関係」を目指さない

「一緒にいて疲れない」は重要ですが、「何もしなくていい」わけではありません。

「今日は疲れているから会話をスキップしたい」と思う夜こそ、意識的に「5分だけ話を聞く」というような、「自分がしたいこと」よりも一段階上の行動を選択してください。

数式は、その「少しの負荷」こそが関係維持の必須コストであると教えています。

2. 危機には「即座に」過剰投資する

喧嘩やトラブルが起きた際、時間の経過を待ってはいけません。

関係の質($x$)が閾値を下回る前に、普段の2倍、3倍の努力($c$)を投入してください。

「ほとぼりが冷めるのを待つ」戦略は、感情の自然減衰を加速させるため、数学的には悪手です。

3. 負担の偏りを認識する

もしあなたがパートナーより「マメ」だったり、気遣いができるタイプなら、危機的な状況で自分が過剰な負担を背負う可能性があると自覚しましょう。

逆に、パートナーが自分よりもしっかりしている場合、相手はあなたに見えないところで「関係維持のためのコスト」を過剰に支払っている可能性があります。

相手の努力効率が高いことに甘えず、自らの努力量を意識的に増やすことで、システム全体の崩壊を防げます。

愛を永遠にするのは魔法ではなく、計算された継続的なエネルギーの投入です。

参考文献

Herrera de la Cruz, J., & Rey, J.-M. (2021). Controlling forever love. PLoS ONE, 16(12), e0260529. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0260529

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