2023年8月、ドイツのドレスデン工科大学の研究チームは、606人の父親を対象にした大規模な追跡調査の結果を公開しました。この調査は、第一子の誕生時と第二子の誕生時で、父親の「夫婦仲の満足度」がどのように変化するのかを2年間にわたって分析したものです。
これまで産後の人間関係の研究は母親に偏っていましたが、今回のデータは「パパの愛情の変化」を科学的に解明した貴重な記録となりました。そこには、第一子と第二子で驚くほど異なる「愛の再燃プロセス」が隠されていました。
今回のポイント
- 第一子のパパは、産後から2年が経過しても夫婦の満足度が下がり続ける。
- 第二子のパパは、産後14ヶ月を境に関係が劇的に回復し、妊娠中のレベルに戻る。
- 交際期間が長いカップルほど、子供ができる前の満足度が低い。
606人のパパを2年間追いかけた「DREAM調査」
研究チームは、ドイツのドレスデン周辺で募集された「DREAM(ドレスデン親子・仕事・メンタルヘルス研究)」というプロジェクトのデータを使用しました。参加したのは606人の父親で、そのうち500人が初めてパパになる人、106人が2回目のパパになる人でした。
調査のタイミングは全部で4回です。妻の妊娠中(出産2ヶ月前)、産後8週間、産後14ヶ月、そして産後2年という長期にわたります。父親たちは「パートナーシップ質問票(PFB-K)」という9つの質問に答え、自分たちの関係がどれほど満たされているかを数値化しました。
この質問票は0点から27点で採点され、13点以下になると「関係がうまくいっていない(不満足)」と判定される、信頼性の高い指標です。研究では、父親の年齢、学歴、収入、交際期間、さらには子供の性別や気質(育てにくさ)が夫婦仲にどう影響するかも同時に分析されました。
結果:2人目のパパに訪れる「14ヶ月目の奇跡」
分析の結果、父親の満足度は「子供が何人目か」によって、全く異なる曲線を描くことが分かりました。
1. 初めてのパパは「右肩下がり」が続く
初めてパパになる男性は、妊娠中の満足度が「20.3点」と非常に高い状態からスタートします。しかし、出産を境に満足度は急落していきます。
産後8週間で18.8点、14ヶ月で17.4点、そして2年後には16.7点まで低下しました。初めての育児による生活の激変や、パートナーとの役割分担のストレスが、2年経っても解消されずに蓄積している様子が見て取れます。
2. 2回目のパパは「V字回復」を果たす
一方、2人目の子供を迎えるパパは、妊娠中の満足度が「17.5点」と、最初から控えめです。産後8週間で16.3点まで下がりますが、ここからが驚きです。
産後14ヶ月を過ぎると満足度が上昇に転じ、2年後には「18.1点」まで回復したのです。これは妊娠中のレベルを上回る数値です。結果として、産後2年の時点では、2人目のパパの方が、1人目のパパよりも夫婦仲の満足度が高くなっていました。
なぜ2人目のパパは「愛」が戻るのか?
この差が生まれる理由として、研究チームは「経験値」と「子供の自立」を挙げています。2人目の育児では、親はすでに育児のコツを掴んでおり、精神的な余裕があります。
また、産後14ヶ月を過ぎると、子供は少しずつ自律的に動けるようになります。育児に投下するリソースが減り、その分をパートナーとのコミュニケーションに回せるようになるのです。これを専門用語で「満足度のリバウンド」と呼びます。
逆に、初めてのパパは全ての変化が未知の体験であるため、適応に時間がかかり、2年経っても「夫婦としての時間」を取り戻すまでには至らないと考えられます。
明日から使える!夫婦仲を維持するアクションプラン
この研究結果を日常生活に活かすための、具体的な行動指針を提案します。特に初めての子供を迎えるカップルにとって、この知識は「心の守り神」になります。
1. 「満足度の低下」を当たり前のプロセスと捉える
初めての育児中にパートナーへの愛着が薄れたと感じても、自分たちを責める必要はありません。今回の調査でも、ほぼ全ての父親が産後に満足度の低下を経験しています。これは「親になるための調整期間」であり、異常事態ではないと理解するだけで、不要な衝突を避けられます。
2. 14ヶ月後を「自分たちの時間」の起点にする
子供が1歳を過ぎたあたりから、意識的に「親としての会話」だけでなく「一人の男と女としての会話」を増やす準備をしましょう。2回目のパパたちが証明したように、この時期は関係修復の絶好のチャンスです。週に一度、30分だけで良いので、育児以外のテーマで話をしましょう。
3. 交際期間が長いカップルほど「予習」を
意外なことに、交際期間が長いカップルほど妊娠中の満足度が低いという結果が出ています。関係がマンネリ化している中で育児が始まると、満足度が回復不能なレベルまで下がるリスクがあります。妊娠期から、産後の役割分担や「どうすれば二人の時間を確保できるか」を具体的に話し合っておくことが重要です。
第一子のパパは2年経っても満足度が下がり続けていましたが、それは「まだ調整が終わっていないだけ」かもしれません。2人目のパパが見せてくれた「リバウンド」の可能性を信じて、少しだけパートナーに歩み寄ってみませんか?
子供の成長とともに、また二人で笑い合える日は必ずやってきます。それまでは、この「14ヶ月の法則」をお守りにして、なんとか乗り切っていきましょう。
参考文献
Mack, J. T., Brunke, L., Staudt, A., Kopp, M., Weise, V., & Garthus-Niegel, S. (2023). Changes in relationship satisfaction in the transition to parenthood among fathers. PLoS ONE, 18(8), e0289049. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0289049


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