公衆の面前で抱きつくべきか?3カ国461人の調査で判明した真実

ポーランドのシレジア大学に所属するダグナ・コクル氏ら研究チームが2025年6月、恋愛関係における愛情表現と関係満足度の関連性を調査した研究を発表した。
この研究は、インドネシア、ネパール、ポーランドという文化背景が大きく異なる3カ国の男女を対象に行われたものだ。
恋人と人前で手をつなぐ、あるいはハグをするといった行為が、私たちの幸福感にどのような影響を与えるのか。
その背後には、文化や宗教、そして個人の心理が複雑に絡み合っている。
研究チームは、公的および私的な場での愛情表現が、国によってどのように異なり、それがパートナーとの満足度にどう結びついているのかを解明しようと試みた。

今回のポイント

  • 愛情表現の頻度は、個人主義的な傾向が強いポーランドで最も高く、集団主義的なインドネシアで最も低い。
  • 文化の違いに関わらず、愛情表現が多いカップルほど関係の満足度が高いという普遍的な傾向が確認された。
  • 関係満足度が最も高かったのは、愛情表現が最多のポーランドではなく、中程度のネパールであった。
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3カ国461人を対象にした大規模比較調査

今回の研究に参加したのは、18歳から49歳までの異性愛関係にある男女計461名だ。
内訳は、インドネシアから170名、ネパールから120名、そしてポーランドから171名となっている。
参加者の平均年齢は23.7歳であり、主に若年層から中年層をカバーしている。

研究チームは、PPRDAS(Public and Private Romantic Display of Affection Scale)という尺度を用いて、愛情表現を測定した。
これは、人前での愛情表現(PDA:Public Display of Affection)と、二人きりの私的な場での愛情表現を区別して評価するものだ。
具体的には、手をつなぐ、ハグをする、キスをする、愛の言葉を伝えるといった行為が含まれる。
また、人前で愛情表現をしている他者に対して、どれほど否定的な意見や行動をとるかについても調査が行われた。

さらに、関係満足度については「非常に不満」から「非常に満足」までの5段階で自己評価を求めた。
これにより、実際の行動頻度と、主観的な幸せの度合いがどのようにリンクしているのかを分析したというわけだ。

文化の壁:ポーランドとインドネシアの決定的な差

調査の結果、人前での愛情表現の頻度には明確な文化差が現れた。
最もオープンだったのはポーランドだ。
ポーランドはホフステードの文化次元における「個人主義指数」が60と高く、個人の感情表現が比較的許容される文化圏である。

一方で、最も控えめだったのはインドネシアであった。
インドネシアの個人主義指数は14と非常に低く、集団の調和や宗教的規範が重視される。
驚くべきことに、インドネシアでは人前での愛情表現に対して否定的な態度をとる割合が最も高かった。
特にイスラム教の規範が強い地域では、未婚のカップルが人前で抱き合うことは社会的なタブーとされ、時には法的、あるいは社会的な罰の対象にすらなり得るのだ。

ネパールはその中間に位置していた。
ネパールの個人主義指数は30であり、ヒンドゥー教や仏教の影響で保守的な側面を持ちつつも、若年層の間では徐々に恋愛観が変化している様子が見て取れる。
ただし、それでも人前でのキスなどは「恥ずべき行為」と見なされる傾向が根強く残っている。

私的な場での愛情表現すら文化に左右される

興味深いことに、人目につかない「私的な場」での愛情表現においても、同様の順位が見られた。
ポーランド人が自宅などのプライベートな空間でも最も頻繁に愛情を示しているのに対し、インドネシア人は私的な場であっても表現が控えめだったのだ。
これは、文化的な「表示規則」が、単に周囲の目を気にするだけでなく、個人の行動様式そのものに深く刷り込まれていることを示唆している。

幸福のパラドックス:ネパールが最も満足度が高い理由

ここで一つの驚くべきデータが浮上した。
愛情表現の頻度が最も高いのはポーランドであったが、関係満足度のスコアが最も高かったのはネパールだったのだ。
平均スコアを見ると、ネパールが3.82、ポーランドが3.43、インドネシアが3.08となっている。

この結果は、関係満足度が単に「ハグやキスの回数」だけで決まるわけではないことを物語っている。
ネパールのような文化圏では、公的な場での接触は制限されているものの、それが逆にパートナーとの精神的な結びつきや、限られた場での親密さを貴重なものにしている可能性がある。

しかし、重要な共通点も発見された。
どの国であっても、愛情表現を頻繁に行う個人は、そうでない個人に比べて関係の満足度が高いという正の相関が認められたのだ。
愛情交換理論(AET)が提唱するように、愛情を伝える行為は、生存と生殖における適応的な戦略であり、人間にとって普遍的な報酬系を刺激するものであることが改めて証明された格好だ。

恋愛関係を良好に保つための「最適解」

この研究結果を私たちの日常にどう活かすべきか。
単純に言えば、「もっとパートナーに触れよう」ということになる。
ただし、その際には周囲の状況を考慮することが肝要だ。

インドネシアのデータが示す通り、文化的に不適切な場での愛情表現は、周囲からの反感を買い、結果として自分たちの評判を落とすことにつながる。
人前での行動に制限がある文化や状況にいる場合は、無理にPDAを増やす必要はない。
しかし、二人きりの場であれば話は別だ。

ハグや手をつなぐといった身体的接触は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制し、絆を深めるオキシトシンの放出を促す。
研究では、たとえ文化が保守的であっても、プライベートな空間でしっかりと愛情を伝え合うことが、関係の安定に直結することが示されている。
相手が何を望んでいるのか、どの程度の接触を心地よいと感じるのかを理解し、その文化的な枠組みの中で最大限の表現を模索することが、幸せへの近道なのだ。

愛情表現は「言葉」以上に雄弁である

今回の調査は異性愛カップルに限定されたものではあるが、人間が持つ「触れ合いたい」という欲求がいかに基本的であるかを浮き彫りにした。
ポーランドのようにオープンに振る舞うもよし、ネパールのように内に秘めた情熱を大切にするもよし。
形は違えど、パートナーへの「暖かさ」を伝える努力を怠らないことが、破局を防ぐ強力な防波堤となるだろう。

他人のPDAに顔をしかめるインドネシアの人々も、実は自宅に帰れば人知れず熱いハグを交わしているのかもしれない。
そう考えると、街中で見かけるカップルへの見方も少し変わってくるのではないだろうか。

結局のところ、愛の形は文化が決めるが、愛の深さを決めるのはあなた自身の「手」というわけだ。

Kocur, D., Jach, Ł., Sitko-Dominik, M., Dhakal, S., Sharma, N., Harsono, Y. T., et al. (2025). To hug or not to hug? Public and private displays of affection and relationship satisfaction among people from Indonesia, Nepal, and Poland. PLOS One, 20(6), e0326115. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0326115

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