エセックス大学の心理学者Veronica M. Lamarche氏ら研究チームは2024年9月、回避型の愛着スタイルを持つ人々が、恋愛における「失敗」と「成功」をどのように自分のアイデンティティに組み込んでいるかを調査した研究結果を発表した。
私たちは日々、パートナーとの関わりの中で物語を紡いでいる。しかし、その物語の内容は客観的な事実以上に、自分自身をどう捉えているかという「内部作業モデル」に大きく左右される。今回の研究では、特に他者との親密さを避けようとする「回避型」の人々が、独自の物語構築パターンを持っていることが明らかになった。
今回のポイント
- 回避型の人は、恋人を傷つけると「自分は他者を怒らせる人間だ」と否定的に捉える傾向が強い。
- 良好な出来事に対しては、回避型の人は「自分は価値ある人間だ」と肯定的に自己像へ統合する。
- 不安型の人は、恋愛の出来事をアイデンティティに結びつける傾向が意外にも確認されなかった。
402名のカップルを1年間追跡した大規模調査
研究チームは、イギリスとアメリカに居住する18歳から75歳の成人402名を対象に、1年間にわたる縦断的調査を実施した。参加者の条件は、現在のパートナーと6ヶ月から2年の交際期間があることと設定された。これは、関係が安定しつつも、まだアイデンティティの形成が進行している時期を捉えるためである。
調査は計5回、3ヶ月おきに行われた。第1波では参加者の「愛着スタイル」と「関係満足度」を測定した。愛着スタイルとは、対人関係における心理的な傾向であり、他者を避けようとする「回避型」と、見捨てられることを恐れる「不安型」の2軸で評価される。
第2波から第5波にかけて、参加者は最近起こった「パートナーに対する過失(自分が相手を傷つけた出来事)」と「関係のハイライト(非常にポジティブだった出来事)」について、自由記述形式で物語を書くよう求められた。研究チームはこれらの物語を、「自己イベント接続(Self-Event Connections)」という指標で分析した。これは、過去の出来事を現在の自分の理解に明示的に結びつけているかどうかを測る手法である。
回避型は「失敗」を自己否定の材料にする
分析の結果、回避型のスコアが高い人ほど、自分が犯した過失についての物語の中で、否定的な自己接続を行う確率が高いことが判明した。ロジスティック回帰分析の結果、回避性が1単位上昇するごとに、過失を否定的な自己理解に結びつけるオッズ比は1.239倍となった。つまり、回避型の人はパートナーを傷つけた際、単なる「行動のミス」として処理せず、「自分は相手を不当に扱う人間だ」といった形で自己イメージを悪化させていたのだ。
驚くべきは、ポジティブな出来事に対する反応だ。従来の理論では、回避型の人は他者との親密な成功体験を無視、あるいは過小評価すると考えられてきた。しかし、本研究の結果では、回避型のスコアが高いほど、ハイライトとなる出来事をポジティブな自己理解に結びつける確率も高かった。こちらのオッズ比は1.230倍であり、過失の時とほぼ同等の強さで自己イメージの向上に利用していたことがわかった。
一方で、不安型の愛着スタイルを持つ人々については、過失やハイライトを自己イメージにリンクさせる有意な傾向は見られなかった。不安型の人は過去の出来事を歪めて記憶したり、強い感情を伴って思い出したりすることはあっても、それを「自分という人間の定義」として定着させるプロセスは、回避型ほど明確ではない可能性が示唆された。
物語の内容は関係満足度を説明しない
研究ではさらに、これらの物語の構築パターンが、将来の関係満足度を左右するかどうかも検証された。しかし、物語の中でどれだけ自分を肯定・否定したとしても、それが愛着スタイルと関係満足度の低さを結びつける直接的な原因(媒介変数)にはならないことが判明した。愛着スタイルが関係に与える悪影響は、物語の紡ぎ方という認知的な側面よりも、実際のコミュニケーションや行動の選択といった他の要因に根ざしていると言える。
回避型パートナーへの接し方を変えるヒント
この研究結果は、恋愛において「クールで無関心」に見える回避型の人々の内面を理解する重要な鍵となる。彼らは表面上は距離を置いているように見えるが、その内側ではパートナーとのやり取りを非常に強く「自分という人間を定義する情報」として処理しているのだ。
例えば、回避型のパートナーが何らかのミスをして殻に閉じこもっている時、彼らは単に反省しているのではなく、「自分は最低の人間だ」という強い自己否定に陥っている可能性がある。この状態で厳しく責め立てることは、彼らの自己像をさらに破壊し、防衛的な反応を引き起こすリスクを高める。反対に、些細な良い出来事を共有した際、彼らが意外にも饒舌になり、自分を誇るような態度を見せるのは、それが彼らにとって貴重な自己肯定の機会だからである。
回避型の人は、人一倍「自分という物語」を慎重に管理している。もしあなたのパートナーがこのタイプなら、失敗を責めるよりも、成功した瞬間に「あなたがいかに素晴らしいか」を強調する方が、彼らのアイデンティティを安定させ、結果として関係を維持しやすくするかもしれない。彼らにとっての「私たち(Us)」の物語は、常に「自分(Me)」をどう定義するかという切実な問題と表裏一体なのである。
まとめに代えて
回避型の人間が、他者を避けながらも、他者との関係を誰よりも「自分探し」の材料にしているという事実は皮肉な矛盾だ。結局のところ、孤高を気取っていても、私たちは誰かとの間にしか自分という存在を見出すことができないというわけだ。
引用論文:
Lamarche, V. M., Blackie, L. E. R., & McLean, K. C. (2024). The story of ‘us’ is the story of ‘me’: A cross-sectional test of the influence of insecure attachment on narratives of romantic transgressions and high points. PLoS ONE, 19(9), e0306838. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0306838


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