ペンシルベニア州立大学の研究チームが2025年7月、愛に関する常識を覆す研究結果を発表した。
私たちは日常生活において「もっと愛されたい」「パートナーからの愛情を感じたい」と願うことが多い。愛とは誰かから与えられるものであり、それを受け取ることで幸福になれると信じているからだ。
しかし、最新の科学的知見はその直感を真っ向から否定する。
研究チームは、日常生活における「愛を感じる瞬間」と「愛を表現する瞬間」の因果関係を数学的に解析した。その結果、愛を感じるための最も確実な方法は、誰かからの愛を待つことではなく、自分から愛を表現することであると判明したのだ。
この発見は、私たちが受動的な「愛の消費者」ではなく、能動的な「愛の生産者」になるべきであることを示唆している。
今回のポイント
- 愛を表現する行動は、その後「愛されている」という感覚を増大させる
- 逆に「愛されている」と感じても、その後に愛を表現する行動は増えない
- 自分から愛を伝えた効果は、最大で3時間持続する
52人の生活を28日間監視する過酷な実験
愛という主観的で曖昧な感情を、科学者はどのように測定したのか。
研究チームは「生態学的瞬間評価(EMA)」と呼ばれる手法を採用した。これは、実験室に被験者を閉じ込めるのではなく、彼らの日常生活の中に介入してリアルタイムのデータを収集する方法だ。
対象となったのは、アメリカ北東部の大学街で募集された19歳から65歳までの成人52名である。平均年齢は30.19歳。参加者の67%が女性で、88%が何らかのパートナーシップ関係にあった。
スマホに届く1日6回の指令
実験期間は4週間、つまり28日間という長期に及んだ。この間、参加者たちのスマートフォンには、1日に6回、ランダムなタイミングで通知が届く。
彼らはその通知が来るたびに、以下の2つの質問に0から100の数値で答えなければならなかった。
1. 「今、あなたはどれくらい愛されていると感じますか?(Felt Love)」
2. 「前回の調査以降、あなたは愛を表現しましたか?(Expressed Love)」
仕事中であろうと、食事中であろうと、彼らは自分の感情と行動を数値化することを求められたのだ。0は「全くない」、100は「非常に強く感じる/表現した」を意味する。
最終的に収集されたデータポイントは膨大な数に上り、1人あたり平均157回もの回答が得られた。
時間の流れを考慮した複雑な解析
この研究の肝は、単なる相関関係(Aが高いとBも高い)を見たのではない点だ。研究チームは「連続時間確率過程モデル」という高度な統計手法を用いた。
これは、「ある瞬間の行動が、数時間後の感情にどう影響するか」という時間の流れ(ダイナミクス)を数学的に記述するモデルだ。これにより、「愛を感じたから表現したのか」、それとも「表現したから愛を感じたのか」という、卵と鶏の問題に決着をつけることが可能になったのである。
「愛される」のを待っても無駄だった
解析の結果、愛のメカニズムに関する衝撃的な事実が明らかになった。
愛の出力は、愛の入力を予測する
データは明確な「クロス効果」を示していた。参加者が「愛を表現した(Expressed Love)」数値が高まると、その直後から数時間にわたり「愛されていると感じる(Felt Love)」数値が有意に上昇したのだ。
特筆すべきは、その効果の持続時間である。自分から愛を表現したことによる「愛されている感覚」の向上は、行動の約3時間後にピークを迎えることが判明した。
つまり、パートナーに優しい言葉をかけたり、ハグをしたりすると、その瞬間に気分が良くなるだけでなく、3時間後には「自分は世界から愛されている」という感覚が最大化するのだ。
愛の入力は、出力を生まない
一方で、逆のパターンは成立しなかった。「愛されている」と強く感じたとしても、その後の時間で「愛を表現する」行動が増えることはなかったのである。
それどころか、統計的には「愛されていると感じるほど、その後の愛の表現行動はわずかに減少する」という傾向さえ見られた(ただし、この減少幅は極めて小さく、実質的には影響なしと見なせる)。
これは「愛されれば、自然と愛を返したくなるはずだ」という我々の期待を裏切る結果だ。愛を受け取ることは心地よい体験だが、それは必ずしも次の愛の行動への燃料にはならない。
愛されているという感覚は「慣性(イナーシャ)」が強く、一度高まると長時間持続する傾向がある。しかし、その幸福感に浸るあまり、能動的なアクションを起こす動機付けには繋がらない可能性があるのだ。
恋愛工学:3時間ごとのアクションプラン
この研究結果は、恋愛や人間関係における具体的な戦略を提供する。
「最近、パートナーからの愛情を感じない」「孤独を感じる」と嘆く人々に対して、科学は明確なソリューションを提示している。それは「愛されるのを待つな、まず自分から出力せよ」ということだ。
愛は「感情」ではなく「技能」である
研究者らは、日常生活における愛(Love in Everyday Life: LEL)を、習得可能な「スキル」として捉えるべきだと提案している。
愛を感じる回路を強化するためには、筋力トレーニングのように、定期的な「表現」という負荷をかける必要がある。
具体的なアクションとしては以下のようなものが考えられる。
1. 感謝の言葉を口に出す。
2. 相手のためにコーヒーを淹れる。
3. 軽いスキンシップをとる。
4. 相手の話に真剣に耳を傾ける。
重要なのは、これらを「相手からの見返り」を期待して行うのではなく、「自分の脳に愛を感じさせるためのトリガー」として行うことだ。
今回のデータに従えば、一度のアクションの効果は3時間でピークに達し、その後減衰する。つまり、1日に数回、意識的に愛を表現する行動をとることで、1日中「自分は愛されている」という感覚を維持できる計算になる。
メンタルヘルスへの波及効果
さらに、この研究では「愛されている感覚が持続しやすい人(慣性が高い人)」ほど、「精神的な豊かさ(フローリッシング)」のスコアが高いことも明らかになった。
自分から愛を表現し、それによって得られた「愛されている感覚」を長く維持すること。このサイクルを回すことが、恋愛関係だけでなく、個人の精神的な健康そのものを向上させる鍵となる。
パートナーがいない場合でも、友人や家族、あるいは親切な他人に対して好意的な行動をとることで、同様の心理的メカニズムが働く可能性が高い。
愛とは、空から降ってくるのを待つものではなく、自らの行動によって脳内に生成する物質なのだ。
結局のところ、愛の重さを量る天秤は、あなたが載せた分だけ、あなたの方に傾くようにできているらしい。
Reference:
Williams, L., Kim, S. H., Li, Y., Heshmati, S., Vandekerckhove, J., Roeser, R. W., & Oravecz, Z. (2025). How much we express love predicts how much we feel loved in daily life. PLoS ONE, 20(7), e0323326. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0323326


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