「正反対の二人」は結ばれない

記事の要旨
– 「自分と正反対のタイプに惹かれる」という通説は、統計学的にほぼ誤りであることが証明された。
– 130以上の形質を分析した結果、パートナー間の相関は82%から89%の高い割合で「類似」を示している。
– 政治的価値観や宗教観などの社会的因子は、性格特性よりも遥かに強い一致傾向が見られた。

はじめに:ロマンチシズムを否定する「類似性の法則」

古くから恋愛物語においては、「静と動」「富豪と貧者」「内向と外向」といった、正反対の性質を持つ二人が磁石のように引き合う構図が好まれてきた。

「自分にないものを持っている人に惹かれる」という言説は、欠落を埋め合わせようとする人間の心理として、まことしやかに語り継がれている。

しかし、最新の遺伝行動学と統計解析は、このロマンチックな神話を完膚なきまでに破壊した。

米国コロラド大学ボルダー校の研究チームが主導した大規模なメタ分析により、人間のパートナー選択は「補完」ではなく「同質性の確認」によって成立しているという冷徹な事実が明らかになった。

我々は無意識のうちに、自分自身を鏡に映したような相手を選び取っているのである。

本稿では、100年分のデータを総ざらいしたこの研究の詳細と、人間関係を支配する「類は友を呼ぶ」の科学的根拠について詳報する。

研究手法の検証:100年にわたるデータの包括的解析

本研究の特筆すべき点は、そのサンプルサイズの膨大さと、対象となった形質(特徴)の多様性にある。

研究チームは、単一の調査ではなく、過去の文献と現代のバイオバンクデータを統合することで、普遍的な傾向を導き出した。

第一分析:歴史的データの統合

まず、1903年から現代に至るまでに発表された199件の心理学・社会学研究論文をメタ分析した。

– 対象:数百万組の夫婦およびパートナー。
– 範囲:性格、知能、身体的特徴など、22の主要な特性について相関関係を調査。

第二分析:UKバイオバンクの活用

次に、英国の大規模生体医学データベース「UKバイオバンク」に登録されている約8万組のカップルのデータを解析した。

– 手法:遺伝子情報を含む133の形質について、パートナー間の相関係数を算出。
– 目的:自己申告だけでなく、客観的な生物学的指標における類似性を測定。

これらの二重のアプローチにより、時代や文化を超えた「パートナー選択の基本原理」が浮き彫りとなった。

具体的データの提示:相関係数が示す「分断」

解析の結果、分析された形質の82パーセントから89パーセントにおいて、パートナー間に正の相関(似た者同士であること)が確認された。

一方で、負の相関(正反対の性質を持つこと)が明確に確認された形質は、全体のわずか3パーセントに過ぎなかった。

最も一致するのは「価値観」と「生活習慣」

具体的にどのような特徴が一致しやすいのか。データは興味深い序列を示している。

1. 政治的・宗教的価値観(相関係数 0.58以上)
最も強い相関が見られたのは、思想信条の領域である。政治的なスタンスや宗教的な献身度は、パートナー間で極めて高く一致していた。

2. 教育レベルとIQ(相関係数 0.40前後)
学歴や知能指数についても、自分と同程度の相手を選ぶ傾向が顕著であった。これは社会的な階層固定化を示唆する数値でもある。

3. 物質使用習慣(相関係数 高)
喫煙習慣や飲酒量、「過去に何人の相手と交際したか」という性的遍歴についても、カップルは似通う傾向にあった。

「性格」の一致は意外に低い

注目すべきは、一般的に重視されがちな「性格(外向性・内向性など)」の相関が比較的低かった点である。

「心配性」「神経質」といった性格特性の相関係数はわずかな正の値を示したが、価値観の一致に比べれば微々たるものであった。

これは、「性格の不一致」は関係維持の障害になり得るが、パートナー選択の決定的な要因ではないことを示唆している。むしろ、世界をどう見るかという「レンズ(価値観)」の共有こそが、関係構築の根幹を成しているのだ。

「正反対」が成立した稀有な例外

唯一、パートナー間で異なる傾向が見られた数少ない例外として「クロノタイプ(朝型か夜型か)」が挙げられた。

しかしこれも「自分にないものを求めた」結果というよりは、生活リズムの違いが育児や家事の分担において機能的に作用した結果として、関係が持続した可能性が推測される。

「内向的な人が外向的な人に惹かれる」という俗説についても、統計的な裏付けは得られなかった。結局のところ、外向的な人間は外向的な人間と、内向的な人間は内向的な人間と結びつくのが実情である。

結果からの発展:我々がとるべき行動

本研究は、パートナー探しの戦略において「自分らしさ」の分析がいかに重要かを物語っている。

「自分を変えてくれるような、全く違う世界の人」を追い求めることは、統計的な確率論からすれば非効率的なギャンブルに過ぎない。

むしろ、自身の政治観、金銭感覚、教育に対する価値観を明確にし、それらが共鳴するコミュニティの中で相手を探すことが、長期的かつ安定的な関係への最短ルートとなる。

「正反対の魅力」という幻想を捨て、鏡の中に映る自分自身の特性を深く理解すること。それが、最良のパートナーを見つけ出すための第一歩である。


参考文献
Horwitz, T. B., Balbona, J. V., Paulnock, K. N., & Keller, M. C. (2023). Evidence of correlations between human partners based on systematic reviews and meta-analyses of 22 traits and UK Biobank analysis of 133 traits. Nature Human Behaviour, 7, 1379–1389. https://doi.org/10.1038/s41562-023-01672-z

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