大正・昭和の恋愛事情:なぜ「お見合い」が合理的とされたのか?

大正・昭和初期の恋愛言説とは、個人の情熱を「衝動的で危険なもの」と定義し、理性を象徴する親の承認やお見合いを通じて社会秩序との調和を図った価値観のことです。

関西社会学会の桶川泰氏は、大正から昭和初期にかけて発行された人気雑誌『婦人公論』と『主婦之友』の記事を分析し、当時の日本人がどのように「自由な恋愛」と「既存の社会秩序」の折り合いをつけてきたのかを明らかにしました。

現代では「好きな人と結婚する」のが当たり前ですが、かつての日本では、激しい恋心はむしろ結婚生活を壊すリスクとして警戒されていたのです。この記事では、私たちの先祖がたどり着いた「賢い結婚のカタチ」を探ります。

今回のポイント

  • 恋の情熱は「盲目的で一時的なもの」として批判の対象だった
  • 昭和初期に「お見合いは合理的で幸せになれる」という理論が確立した
  • 「愛は結婚した後に自分たちで作り出すもの」と考えられていた
【PR】

婦人雑誌217記事から探る「当時のリアルな結婚観」

本研究では、大正5年(1916年)から昭和20年(1945年)までの『婦人公論』と『主婦之友』から、恋愛や結婚に関する記事を合計217記事収集し、その内容を詳しく分析しました。

分析対象となった記事の内訳は以下の通りです。

雑誌名 評論・訓告形式 座談会・相談等 合計
婦人公論 104記事 15記事 119記事
主婦之友 33記事 65記事 98記事

インテリ層向けの『婦人公論』では知識人の論説が多く、大衆向けの『主婦之友』では読者の体験談や悩み相談が中心となっていました。この幅広い層の声を分析することで、単なる理想論ではない当時の社会全体の空気感を捉えています。

「情熱=衝動的恋愛」は失敗の元?理性を重んじる大正時代

大正時代、自由な恋愛を称賛する声は高まっていましたが、同時にそれは「既存の秩序」を脅かすものとして警戒もされていました。

そこで登場したのが情熱=衝動的恋愛観という言説です。これは、激しい恋心を「盲目的」「一時的な快楽」として批判し、結婚には「理性(理知的な判断)」が必要だと強調する考え方です。

親の承認こそが「理性のフィルター」

当時の知識人たちは、「若い者は情熱に目がくらんで相手を見誤る」と主張しました。そのため、理性的な判断を下すためには、人生経験の豊富な両親の相談や承認が不可欠であるという論理が生み出されました。

つまり、「自由な恋愛」を認めつつも、「最終決定には親のチェックが必要」というルールを作ることで、社会のルールと個人の感情を調和させようとしたのです。

昭和に誕生した「お見合い至上主義」の驚くべき合理性

昭和初期に入ると、「恋愛結婚か、お見合い結婚か」という究極の二択(二元コード)が議論されるようになります。ここで面白いのが、お見合い結婚の方が合理的で幸せになれるという主張が強まったことです。

「愛は後から創造するもの」という新発想

当時の論者である中桐確太郎氏は、「恋愛は創造せらるべきもの」と述べました。結婚前に燃え上がる恋愛は、生活が始まるとすぐに冷めてしまう。しかし、お見合いで理性的に選んだ相手となら、結婚した後に深い愛を育てていくことができると考えたのです。

この「愛の創造」というロジックは、恋愛結婚に憧れつつもお見合いを受け入れざるを得なかった当時の若者たちに、大きな希望と納得感を与えました。

国家や子孫のための「優生結婚」というハードな側面

一方で、恋愛の「個人的な楽しみ」を否定する動きは、やがて優生結婚(ゆうせいけっこん)という考え方にも結びつきました。

優生結婚とは、より優れた子孫を残すために、健康な相手と理性的に結婚すべきであるという主張です。昭和14年以降、戦争の足音が近づくと、恋愛は「民族や国家のために費やすべきエネルギー」として位置づけられるようになりました。

実際に『主婦之友』の座談会でも、理想の結婚相手として「健康診断書を取り交わす」ことの重要性が語られており、個人の愛よりも「健康な次世代を残す責任」が強調される時代へと変化していったのです。

現代の私たちがこの研究から学べること

大正・昭和の恋愛論を振り返ると、現代の私たちが忘れかけている「愛の育て方」のヒントが見えてきます。この歴史的な知見を、日常のパートナーシップに活かしてみませんか?

1. 「ビビッときた」という直感だけに頼らない
情熱は素晴らしいものですが、当時の言説が警告するように「盲目」になりやすい側面もあります。相手の価値観や生活習慣など、一歩引いた「理性的な視点」を持つことで、より安定した関係を築けるでしょう。

2. 信頼できる第三者の意見を大切にする
当時は「親の承認」が理性のフィルターでした。現代なら、共通の友人や信頼できる先輩の意見に耳を傾けてみるのが良いでしょう。自分たちだけでは見えない「相性」を客観的に教えてくれるはずです。

3. 愛を「見つける」のではなく「育てる」意識を持つ
「理想の相手がどこかにいる」と探し続けるよりも、選んだ相手と「これから愛を作っていく」という姿勢を持つことで、結婚生活の幸福度は格段に上がります。「愛は後から創造するもの」という先人の知恵は、現代の婚活でも最強の武器になるでしょう。

歴史を知ることは、今の自分の「愛し方」を見つめ直すきっかけになります。情熱と理性のバランスを大切に、あなただけの「幸福な秩序」を築いていってくださいね。

参考文献

桶川泰 (2007). 大正期・昭和初期における『婦人公論』『主婦之友』の恋愛言説 ――――「お見合い至上主義」言説・「優生結婚」言説の登場とその過程――――. フォーラム現代社会学, 6, 93-104.

コメント

タイトルとURLをコピーしました