同志社大学の松並知子氏は、高校生839名を対象とした調査を行い、若者の間に広がる「依存的な恋愛観」がデートDV(交際相手の間で起こる暴力)の認識にどのような影響を与えているかを発表しました。
「束縛は愛の証」という考え方が、なぜ危険な関係を招くのか。自分らしさを失うことが恋愛にどう作用するのか。最新の心理学研究から、健全なパートナーシップを築くためのヒントを探ります。
今回のポイント
- 依存的な恋愛観が強いほど、身体的・精神的な攻撃を「暴力」と認識しにくくなる
- 「依存的恋愛観」は女性よりも男性の方が有意に高い傾向がある
- 女性は「自分らしさ(本来感)」が低下すると、仲間や恋人への依存が強まる
高校生839名を対象とした大規模な質問紙調査
この研究では、地方都市にある公立高校5校に通う生徒、計839名(男性334名、女性505名)を対象にアンケート調査を実施しました。
調査では、以下の4つの概念を測定し、それらがどのように関連し合っているかを統計的に分析しました。
1. デートDVに関する暴力観
「叩く」「嫌がるのに接触を求める」「スマホをチェックする」などの行為が、どの程度暴力にあたると思うかを7段階で回答してもらいました。
2. 依存的恋愛観
「恋人と自分は一心同体」「束縛は愛の証」といった、相手を支配・独占することを肯定する価値観を測定しました。
3. 本来感(ほんらいかん)
「いつも自分らしくいられる」「これが自分だという実感がある」といった、自分自身を本当らしく感じられる感覚のことです。適応的な自尊心に近い概念といえます。
4. 仲間集団への依存(PGD)
「人からの評価で自分の感じ方が左右される」「強い人に惹かれる」など、周囲の人たちに心理的に頼り切ってしまう傾向を指します。
男性は恋愛観、女性は仲間への依存にジェンダー差
調査の結果、各項目の平均得点において興味深い男女差(ジェンダー差)が見られました。統計的な有意差(偶然とは考えにくい明確な差)が示されたポイントは以下の通りです。
| 項目 | 傾向 |
|---|---|
| 依存的恋愛観 | 男性の方が有意に高い(p < .001) |
| 仲間集団への依存 | 女性の方が有意に高い(p < .001) |
| 暴力の認識 | 男性の方が「暴力にあたる」と厳しく捉える傾向(p < .01) |
驚くべきことに、現代の若者においては男性の方が恋人への依存性が強く、「恋愛至上主義」的な傾向があることが示唆されました。一方で、女性は友人などの仲間集団に心理的な居場所を求める傾向が強いようです。
「束縛は愛」と信じると、暴力に気づけなくなる
この研究の核心は、心理的な因果関係を分析したモデルにあります。男女ともに共通して見られたのは、「依存的恋愛観が強まると、暴力を暴力として認知しなくなる」という負の関連です。
具体的には、依存的恋愛観の尺度から暴力観への係数は、女性で -0.30、男性で -0.13 と負の数値を示しました(p値はそれぞれ .001未満、.05未満で有意)。つまり、相手を支配しても良い、束縛は当然だと思っている人ほど、実際に叩かれたり制限されたりしても「これは愛ゆえの行動だ」と脳内で変換し、被害や加害の深刻さを見逃してしまうリスクがあるのです。
女性特有のルート:自分らしさの喪失が依存を招く
女性の場合、「本来感(自分らしくいられる感覚)」が低いことが、仲間集団への依存を介して依存的恋愛観を強めていることが分かりました。自分に自信がなく、本当の自分を出せないと感じている女性は、誰かにしがみつくことで安心を得ようとし、それが不健全な恋愛観へとつながる恐れがあります。
研究の結論と今後の課題
著者の松並氏は、相手に依存しすぎない「健全な恋愛観」を育むことが、デートDVの予防に直結すると結論づけています。
ただし、今回の研究にはいくつかの限界もあります。
1つ目は、あくまで「暴力に対する考え方(暴力観)」を調べたものであり、実際の暴力経験そのものを調査したわけではない点です。2つ目は、高校生という発達段階特有の傾向である可能性がある点です。今後は実際の被害・加害実態を含めた、より詳細なプログラム開発が必要とされています。
健全な関係を築くための2つのステップ
この研究結果を私たちの日常に活かすなら、以下の2つの意識を持つことが大切です。
1. 「自分らしくいられる時間」を大切にする
女性に顕著だったように、自分らしさを見失うことが過度な依存の入り口になります。趣味や一人で過ごす時間を持ち、恋愛以外の場所でも「本当の自分」を肯定できるようにすることで、相手に振り回されない強さが生まれます。
2. 「束縛」と「愛」を明確に切り離す
「相手を支配したい」「何でも把握したい」という欲求は、愛ではなく依存やコントロールです。相手のプライバシーを尊重することが、結果として暴力の芽を摘み、お互いを尊重し合える長続きする関係へとつながるでしょう。
依存的恋愛観とは、恋人を独占・支配することを愛の証と捉え、相手に強く執着してしまう価値観のことです。
参考文献
松並知子 (2020). 高校生における依存的恋愛観の心理的要因およびデートDV暴力観との関連 ―ジェンダー差に注目して―. 日本健康相談活動学会誌, 15(1), 52-57.



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