恋愛で「自分」は見つかる?青年期の恋人とアイデンティティの関係

東京工芸大学の小沢一仁氏は、青年期における恋愛関係が「自分は何者か」という自己イメージの形成にどのような影響を与えるかについて、最新の見解を発表しました。この記事では、恋人の存在が私たちの心にどのような変化をもたらすのか、科学的な視点で紐解いていきます。

「アイデンティティ」とは、自分が自分であることを自覚し、周囲から認められているという確かな感覚のことです。

今回のポイント

  • 自分自身が確立していなくても、恋人ができる確率に差はない
  • 恋人ができることで「自己否定感」が減り、他者からの承認感が高まる
  • 自分の目標が不明確なままだと、相手にすがりつく「アイデンティティのための恋愛」に陥りやすい
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大学生を1年間追跡してわかった恋愛と自己形成のプロセス

今回の解説の基となったのは、高坂康雅氏による大学生を対象とした調査(高坂, 2023)に対するコメント論文です。この研究では、1年間の追跡調査を通じて「アイデンティティが形成されているから恋人ができるのか」それとも「恋人ができるからアイデンティティが形成されるのか」という2つの視点から検討が行われました。

調査では、多次元自我同一性尺度(MEIS)という心理指標が用いられました。これは、自分がどれくらい「自分らしさ」を感じているかを、以下の4つの側面から測定するものです。

  • 自己斉一性・連続性:過去から現在まで自分が一貫しているという感覚
  • 対他的同一性:他者から自分が受け入れられているという感覚
  • 対自的同一性:自分自身の目標や生き方が明確であるという感覚
  • 心理社会的同一性:社会の中で自分らしく貢献できているという感覚

「自分探し」の途中でも恋人はできるという意外な事実

研究の結果、驚くべき事実が明らかになりました。1年前の時点でアイデンティティが確立している「高群」の人と、まだ迷いの中にいる「低群」の人を比較したところ、1年後に恋人ができている割合に統計的な差はなかったのです。

つまり、「自分が何者かわからない」と悩んでいる状態であっても、恋愛関係をスタートさせることは十分に可能です。これは、恋愛が容姿や性格の魅力、あるいは「縁」といった偶然の要素に左右される部分が大きいためだと考察されています。

恋人の存在が「自己否定」を和らげ、承認欲求を満たす

一方で、恋人ができること自体は、心の安定に大きな影響を与えます。1年間のうちに恋人ができたグループは、できなかったグループに比べて「自己斉一性・連続性」と「対彼の同一性」のスコアが向上していました。

具体的には、恋人から愛されていると感じることで、これまで自分に向けていた否定的な感情が低減します。さらに、「重要な他者である恋人から認められた」という実感が、社会全体から承認されているような感覚(他者承認感覚)へと広がることが示唆されました。

注意すべき「溺れる者は藁をも掴む」依存的な恋愛

ただし、すべての恋愛がプラスに働くわけではありません。小沢氏は、アイデンティティが不安定なまま恋愛にのめり込む「アイデンティティのための恋愛」というリスクを指摘しています。

特に注目すべきは「対自的同一性」、つまり自分の目標の明確さです。もし自分の生きる目標が見つかっていない状態で恋愛をすると、不安定な自分を支えるために相手に過度にしがみついてしまう可能性があります。これは「溺れる者が藁(わら)を掴む」ような状態で、健全な親密さを築くのが難しくなるケースです。

健全な関係へ進むためのカギは「自立と対話」

論文では、恋愛をアイデンティティの成長につなげるためには、お互いが「一人の人間として自立すること」を認め合う姿勢が必要だと述べています。単に二人だけの世界に閉じこもるのではなく、それぞれの人生の課題や目標について対話し、支え合うことが、真のアイデンティティ達成への近道となります。

【深掘り】恋人がいない期間、私たちはどう成長すべきか?

この記事を読んで「今恋人がいない自分は、アイデンティティを形成できないのでは?」と不安になった方もいるかもしれません。しかし、研究データによれば、自分の目標を明確にする「対自的同一性」や、社会の中での自分を捉える「心理社会的同一性」は、恋人の有無に関わらず、時間経過や学年進行とともに向上していく傾向があります。つまり、恋愛は自己成長のブースター(加速器)にはなりますが、必須条件ではありません。今は趣味や学業、キャリア目標を深掘りすることで、将来より良いパートナーシップを築くための「心の土台」を整えている時期だと捉えるのが、心理学的にもポジティブな向き合い方と言えるでしょう。

青年期の恋愛は、喜びだけでなく自分自身を見つめ直す痛みも伴いますが、それらすべてが「自分」というパズルを完成させるための大切なピースとなります。

小沢一仁 (2025). 青年期における恋愛関係とアイデンティティ形成の関連:高坂論文へのコメント. 青年心理学研究, 36(2), 107-110.

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