和光大学の高坂康雅教授は、大学生を対象とした心理学研究において、アイデンティティ(自己同一性)の確立と恋愛関係の形成に深い関わりがあることを発表しました。多くの人が抱く「自分をしっかり持っていないと恋人はできないのか?」という疑問や、「恋愛をすることで自分自身がどう変わるのか」という問いに対し、最新の知見から答えを出しています。
恋愛は自分自身の連続性や他者からの承認を強め、アイデンティティの核を形成する助けとなります。
今回のポイント
- 「自分」が未確立でも恋人はできるが、恋愛を通じて「自分らしさ」は強化される
- 恋人から貰ったエネルギーを「外の世界」で使うことで、本当の自信が育つ
- 目標を持たずに恋人にしがみつくと、アイデンティティの「拡散」を招く恐れがある
アイデンティティが未熟でも恋愛はスタートできる
「自分という人間がよくわからない」「将来の目標が定まっていない」といった、アイデンティティ(自己同一性)が未確立な状態では、良い恋愛ができないと思われがちです。しかし、高坂教授の研究によると、大学生において「アイデンティティが確立している人」と「そうでない人」を比較した際、恋人のできやすさに差は見られませんでした。
つまり、自分探しをしている最中であっても、恋愛を始めることは十分に可能だということです。恋愛のきっかけは偶然の出会いや相手の魅力など多岐にわたるため、自己の確立だけがカップル成立の条件ではないことが示されました。
心理学者のエリクソンは、青年期の恋愛を「自分とは何かを定義するための試み」と呼んでおり、むしろ未完成な自分を補うために誰かを好きになることも、ごく自然な発達のプロセスと言えます。
恋愛によって成長する「自分らしさ」の正体
一方で、恋愛関係を築くことはアイデンティティの形成にプラスの影響を与えます。研究では、恋人ができた学生は、いない学生に比べて中核的同一性が上昇することが分かりました。
中核的同一性を構成する2つの要素
この「中核的同一性」とは、自分の根っこにある感覚のことで、主に以下の2つの感覚から成り立っています。
1. 自己斉一性(せいいつせい)・連続性:過去から未来まで、自分はずっと同じ自分であるという感覚のことです。
2. 対他的(たたてき)同一性:他者から認められ、自分はこれでいいのだと安心できる感覚のことです。
恋人ができることで、「自分は愛される価値がある」という他者承認が高まり、それが「自分という存在の安定感」につながります。興味深いのは、たとえその恋人と別れたとしても、一度高まった中核的同一性は低下しにくいという点です。恋愛で得た自信は、その後の人生の土台として残り続けるのです。
「自立した恋愛」と「依存する恋愛」を分けるもの
高坂教授は、青年期の恋愛を「エネルギーの奪い合い」から「好循環」へと変える仕組みを提唱しています。ここで重要になるのが、単に恋人と仲良くするだけでなく、外の世界(社会)での活動に目を向けることです。
成長を加速させる「エネルギーの好循環」モデル
理想的な恋愛のサイクルは以下のようなステップを辿ります。
1. 恋人から精神的なエネルギー(安心感や活力)をもらう。
2. そのエネルギーを使って、仕事や勉強、インターンシップなど「外の世界」で努力する。
3. 社会的な活動で成功や達成感を味わい、自信を得る。
4. 成長して強くなったエネルギーを、今度は恋人に与える。
この循環の鍵を握るのが、自分の目標を明確にする対自的(たいじてき)同一性です。自分の進むべき道が見えていないと、恋人から得たエネルギーをどこにぶつけていいか分からず、結果として相手に過剰に依存し、しがみついてしまう「拡散的な恋愛」に陥りやすくなります。
まとめ:恋愛を自分を育てるチャンスにする
アイデンティティの形成は、一人だけで完結するものではありません。特に「自分を信じる力」や「他者への信頼」は、誰かと親密な関係を築くことで大きく前進します。
しかし、恋愛だけに閉じこもるのではなく、パートナーから得たパワーを糧にして、自分の目標や社会的な役割に向き合うことが、本当の意味での「自分らしさ」の確立につながるのです。恋愛を通じて自分を深め、社会との接点を見つけていくこと。それが、青年期における健全な発達の姿と言えるでしょう。
次に知っておきたい:社会人になると恋愛とアイデンティティの関係はどう変わる?
今回ご紹介したのは大学生の研究でしたが、読者の皆さんは「社会人になったらこの関係はどうなるの?」と気になったのではないでしょうか。学生時代は「学業」という共通の枠組みがありますが、社会人はキャリアの選択肢がより複雑になります。仕事でのアイデンティティが揺らぎやすい現代において、パートナーの存在がキャリア形成を支える「安全基地」となるのか、あるいは仕事のストレスが恋愛を壊す要因になるのか、ライフステージごとの変化についても今後注目が集まっています。
本記事は、以下の論文を基に作成しました。
参考文献:
高坂康雅 (2025). 大学生における恋愛関係の形成とアイデンティティとの関連に関するさらなる考察――小沢氏のコメントに対するリプライ. 青年心理学研究, 36, 111-114.


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