「彼氏は最初すごく熱烈だったのに、最近冷たい」「彼女の気持ちがなかなかつかめない」
このような恋愛の悩みは、いつの時代も尽きません。実はこれ、個人の性格の問題ではなく、「男女の心の盛り上がり方の違い」として心理学的に説明できる可能性があります。
東京都立立川短期大学(研究当時)の松井豊氏らによる研究チームは、青年の恋愛行動について詳細な調査を行い、「恋愛には決まった5つの段階がある」こと、そして「その段階ごとの男女の熱量の違い」を明らかにしました。
本記事では、この論文のデータに基づき、恋愛がどのように進展し、どのタイミングで男女の気持ちがすれ違うのかを解説します。
今回のポイント
- 恋愛行動は「会話」から「結婚の約束」まで、明確な5つの段階を順番に進む。
- 男性は交際の「初期」に恋愛感情(情熱)が一気に高まる傾向がある。
- 女性は交際が安定した「最終段階」にならないと、恋愛感情が最高潮に達しない。
359名の大学生を対象とした恋愛行動・感情の調査
研究チームは、首都圏の大学(私立2校、公立1校)に通う学生359名(男性125名、女性234名、平均年齢19.7歳)を対象に、質問紙調査を実施しました。
調査では、以下の2つの側面からデータを収集しました。
1. 恋愛行動の経験
「相談事を聞く」「手をつなぐ」「キスをする」など、実際の恋愛において経験した行動30項目について、現在の恋人(または最も親しい異性)と行ったことがあるかどうかを調査しました。
2. 恋愛感情の強さ(Rubinの熱愛尺度)
相手に対する感情の強さを測るために、心理学で広く使われているRubin(ルービン)の熱愛尺度(Loving Scale)を使用しました。
これは、「単なる好意(Liking)」と「ロマンチックな愛(Loving)」を区別するための指標です。たとえば「相手のためなら何でもできる」「相手を独占したい」といった、恋愛特有の情熱的な関わりの強さを得点化して測定します。
得られたデータは、数量化理論第III類という統計手法を用いて解析されました。これは、複雑なデータの関連性を整理し、パターンの類似性を見つけるための手法です。
判明した「恋愛行動の5段階」プロセス
分析の結果、青年の恋愛行動はバラバラに起こるのではなく、ほぼ1次元的(一直線)に、5つの段階を経て進行することが明らかになりました。
研究チームが特定した5段階は以下の通りです。
第1段階:友好的な会話と内面の開示
まずは会話から始まります。趣味や勉強の話だけでなく、「個人的な悩みを打ち明ける」「人に普段見せない面を見せる」といった自己開示が行われます。また、プレゼントを贈るといった行動もこの初期段階に含まれます。
第2段階:つながりを求める行動
次に、物理的・心理的な距離が縮まります。「用もないのに電話をする」「用もないのに会いに行く」「二人だけでデートする」といった行動が特徴です。ここでは、まだ身体的な接触よりも、一緒にいること自体が目的化されます。
第3段階:第三者への紹介と身体接触
関係が公になり始めます。「ボーイフレンド(ガールフレンド)として友人に紹介する」「親に紹介する」といった行動が見られます。また、身体的な面では「手をつなぐ」「キスをする」などがこの段階で生じます。
第4段階:深い関係性の確立
より深い関係へと進みます。「恋人として友人に紹介する」という明確な定義付けがなされ、相手の部屋を訪問するなど、プライベートな空間への侵入が許されます。
第5段階:婚約と性的な結合
最終段階は結婚への具体的な動きです。「結婚の話をする」「求婚」「結婚の約束」が含まれます。また、身体的関係においても「性交」はこの最終段階に位置づけられています。
【衝撃の結果】男女ですれ違う「好き」のピーク
この研究の最も興味深い発見は、「恋愛の進行段階と、熱愛感情(相手へののめり込み度)の高まり方」に明確な男女差が見られたことです。
研究者は、回答者を恋愛の進行度に合わせて「初期(LL群)」から「完成期(HH群)」までの4グループに分け、それぞれの「熱愛尺度得点」を比較しました。
男性:初期に一気に燃え上がる
男性の場合、恋愛感情のスコアは、最も初期の段階(LL群)から次の段階(L群)に移る際、有意に大きく上昇しました(p<.01)。
つまり、男性は交際が始まって間もない段階で、すでに相手への感情的関与(のめり込み)が非常に高くなる傾向があるのです。
女性:最後まで冷静?燃え上がるのは「完成期」
一方、女性のデータは全く異なる動きを見せました。初期や中期の段階ではスコアの上昇は緩やかでした。
女性の感情が爆発的に高まったのは、関係がほぼ完成された「最終段階(H群からHH群)」に移行したときのみでした(p<.001)。
つまり、女性は交際が進んでも、関係が完全に確実なもの(結婚の約束や深い信頼など)になるまでは、情緒的な関与を低く抑えていることが示唆されました。
なぜ女性は「慎重」なのか?3つの仮説
なぜこれほどまでに、男女で気持ちの高まり方に「時差」が生まれるのでしょうか?著者の松井氏は、この結果について以下の3つの仮説を提示して考察しています。
1. 「受け身」の立場による影響
一般的に、恋愛において男性が主導権を握り(デートに誘うなど)、女性がそれに応じるという構図になりがちです。自ら積極的に動く男性は関与が高まりやすい一方、選択を待つ立場の女性は、どうしても感情の高まりが遅れるのではないかと推測されています。
2. 恋愛の「重要度」の違いによる防衛
多くの女性にとって、恋愛やその先の結婚は人生を左右する重大事です。そのため、男性よりも慎重にならざるを得ません。失敗して傷つくことを避けるため、無意識のうちに「確実だ」と思える段階までは、心にブレーキをかけて防衛している可能性があります。
3. 主導権を握るための「戦略」
これは興味深い視点ですが、関係の主導権を握るための無意識の戦略という説です。相手(男性)よりものめり込まず、いつでも「別れ」を選択できる冷静さを保つことは、交渉力を高めることにつながります。結婚などの長期的な保証が得られない不安定な時期には、女性はあえて感情をセーブしているとも考えられます。
実際、別の研究でも「別れ話の主導権は女性にあることが多い」という報告があり、この「女性の慎重さ(冷静さ)」と整合性が取れています。
なお、本研究は1990年に発表されたものであり、対象も首都圏の大学生に限定されています。現代の若者の恋愛観や、年齢層による違いについては、さらなる検証が必要であると著者は述べています。
男性の「最初からフルスロットル」な情熱と、女性の「確信してから燃え上がる」慎重さ。この違いを理解しておくだけで、パートナーとのすれ違いを少し冷静に見つめ直せるかもしれません。
参考文献:
松井豊 (1990). 青年の恋愛行動の構造. 心理学評論, 33(3), 355-370.


コメント