若者の恋愛はなぜ平等にならない?不安が生む「あえての保守」を解説 

東京学芸大学の浅野智彦教授は、現代の若者の恋愛観が「平等化」と「保守化」という矛盾した二つの方向へ同時に進んでいるという研究結果を発表しました。今の若者の恋愛は、自由な選択が広がる一方で、将来への不安が「あえて伝統的な役割を選ぶ」という保守的な態度を生み出しています。

今回のポイント

  • 現代の若者の恋愛は「平等・対等」を求める動きと「伝統回帰」が複雑に混ざり合っている。
  • 「人生は自分次第で変えられる」と考える人は、恋愛における男女の役割分担に否定的な傾向がある。
  • 一方で「社会で生き抜く力があるか不安」な人ほど、デートのリードや家計を男性に頼る保守的な規範を支持しやすい。
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なぜ自由なはずの現代で「古い恋愛観」が消えないのか?

現代社会は、社会の決まりごとが当たり前ではなくなり、個人が常に自分の生き方を選択し直す 再帰的近代(さいきてききんだい) と呼ばれるフェーズにあります。社会学者のアンソニー・ギデンズは、この時代には家柄や経済力ではなく、お互いの満足感だけでつながる対等な関係である 純粋な関係性 が広がり、親密な関係が民主化されると予測しました。

しかし、現実には家事育児の負担が女性に偏ったり、男性が強くリードすべきだという価値観が根強く残っています。これまでの研究では、こうした不平等は「古い慣習が残っているだけ」と考えられてきました。しかし浅野教授は、むしろ「現代特有の不安」が、古い価値観をあえて選び取らせているのではないかという疑問を立て、調査を行いました。

16歳から29歳の男女926名を対象に「意識の深層」を数値化

この研究では、2022年に日本在住の16歳から29歳の男女を対象に行われた全国調査のデータを使用しています。回収された926名の回答をもとに、複数の原因が結果にどう影響するかを探る 重回帰分析(じゅうかいきぶんせき) という手法で分析が行われました。

分析では、以下の二つの要素が恋愛観にどう影響するかを調べています。

  • 再帰的な意識:「今とは違う人生もあり得た」という感覚や、「自分自身についてじっくり考える」といった態度。
  • 保守的な規範:「デートは男がリード」「家事育児は女」「家計は男」といった、伝統的な性別役割分担への賛成度。

さらに、単なる個人の性格だけでなく、学歴や所得、親の学歴などの背景も考慮して分析されました。

「人生は変えられる」と思う人は平等、「将来が不安」な人は保守へ

分析の結果、再帰的な意識には「平等化を促す面」と「保守化を促す面」の両義性があることが数値で明らかになりました。具体的には、統計的な影響の強さを示す 標準化偏回帰係数(最大値1または-1に近いほど影響が強い)において、興味深い傾向が見られました。

まず、ポジティブな再帰性といえる「今とは違う人生もあったかもしれない(偶有性感覚)」が強い人ほど、家事育児を女性が担うべきだという意見に否定的(係数 -0.0943, p<.05)でした。これは、自分の人生を相対化できる人ほど、古い決まりごとに縛られない自由な関係を求めていることを示しています。

衝撃的なのは負の側面です。「社会で生きていく力が自分にあるか心配(能力不安)」を感じている人ほど、以下の規範を強く支持していました。

  • 「デートは男性がリードすべきだ」(係数 0.1186, p<.01)
  • 「家事育児は妻が中心に担うべきだ」(係数 0.1192, p<.01)
  • 「一家の家計を支えるのは男の役割だ」(係数 0.1192, p<.01)

特に「家計は男の役割」という項目については、再帰的な意識の中で唯一、能力不安だけが有意な正の影響を与えていました。つまり、将来への自信のなさが、男女を特定の役割に押し込める保守的な考えを強化する「防衛反応」として機能しているのです。

恋愛の息苦しさを解消するために、自分の中の「不安」と向き合う

この研究結果を私たちの生活に活かすなら、もしパートナーとの関係で「男なんだからリードしてよ」「女なんだから家事をしてよ」といった不満を感じたとき、それは単なる性格の問題ではなく、お互いの将来に対する「不安」が隠れている可能性を考えるべきです。

特に男性が家父長制的な態度(男性が支配的であるべきという考え)をとる場合、それは自信の表れではなく、むしろ「自分にそんな力があるのか」という不安の裏返しである可能性があります。また、女性が保守的な役割を求める場合も、自立して生きていくことへの不安が背景にあるかもしれません。役割分担を押し付け合う前に、お互いが抱えている「将来への不安」を言語化し、共有することが、本当の意味で対等な関係を築く第一歩となります。

「あえて選ぶ保守」は啓蒙では変わらないという難しさ

浅野教授は、この保守化を単なる「無知」や「遅れ」ではなく、他の可能性を知った上で、不安に対処するために「あえて選び直された保守」であると考察しています。これを学術的には 免疫化された原理主義 と呼びます。彼らは「平等な関係」という選択肢があることを知った上で、あえて不安から逃れるために古い形を選んでいるため、単に「平等は良いことだ」と教えるような啓蒙活動では態度が変わらない可能性が高いと指摘されています。今後の課題は、再帰性がもたらす「自由」に伴う「不安」を、社会的にどうケアしていくかにかかっています。

参考文献

浅野智彦 (2026). 再帰的近代社会における若者の恋愛. 東京学芸大学紀要 人文社会科学系, 77, 179-189.

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