相手で変わる?愛着タイプを測る新指標

エラスムス大学医療センターなどの研究チームは、2020年9月、特定の相手ごとに異なる「愛着スタイル」を測定する新しい手法について、学術誌『PLOS ONE』で発表しました。

愛着スタイルとは、幼少期の養育者との関係を通じて形成される「対人関係のパターン」のことです。これまでは「その人の性格」のように一律に捉えられがちでしたが、今回の研究では、母親、父親、パートナーといった相手ごとに愛着が異なる実態を詳細に調査しました。

今回のポイント

  • 相手ごとに異なる愛着(母親には不安、恋人には安定など)を測定する新ツールを開発。
  • 参加者の約半数は「誰に対しても安定」していたが、残りは相手によって愛着が変化していた。
  • 特に母親への不安定な愛着は、成人のメンタルヘルスや人格の問題と強く関連している。
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研究の手法:カードを分けるような「Qソート法」を採用

研究チームは、イギリスの一般住民340名と、オランダの精神科外来患者および健康な女性170名の、計510名を対象に調査を行いました。参加者の年齢は18歳から65歳にわたります。

今回の研究の最大の特徴は、「ANQ(Attachment Network Q-sort)」という新しい測定手法を用いた点です。これは、提示された60個の質問項目(例:「この相手を心から信頼している」など)を、自分に当てはまる順に7つの山に分類していく作業です。

参加者はこの作業を、「母親」「父親」「現在のパートナー」のそれぞれについて個別に行いました。これにより、一人の人間の中に存在する、相手に応じた多様な人間関係のパターンを浮き彫りにしました。

さらに、この結果が実際の精神症状や人格障害の傾向、過去の虐待経験などとどのように関連しているかを、既存の複数の心理検査(BSI、DAPP-sf、CTQなど)を用いて検証しました。

結果:愛着のパターンは「4つのグループ」に分かれた

収集したデータを統計的に分析(潜在クラス分析)した結果、人々は以下の4つの愛着グループに分類できることが判明しました。

1. 全面的に安定している層(52%)

参加者の半数以上は、両親およびパートナーのすべてに対して「安定型」の愛着を示しました。このグループは、精神症状や人格の問題が最も少ないことが確認されました。

2. 父親に対してのみ不安定な層(24%)

母親やパートナーとは安定した関係を築けているものの、父親に対してだけは回避的、あるいは不安的な傾向を持つ人々です。

3. 母親に対してのみ不安定な層(15%)

父親とは安定しているが、母親との関係においてのみ不安定さを示す層です。このグループは、父親に対して不安定な層よりも、精神的な苦痛を強く感じている傾向にありました。

4. 両親に対して不安定な層(9%)

父親・母親の両方に対して不安定な愛着を持つ人々です。最も高い割合で精神症状や対人関係のトラブルを抱えており、過去の虐待やネグレクトの経験も有意に多いことが分かりました。一方で、注目すべきことに、このグループであっても「現在のパートナー」に対しては安定した愛着を報告していました。

数値で見る深刻度の違い

精神疾患の指標(BSI)において、疾患の存在が疑われるスコアを超えた人の割合は、全面的に安定したグループでは28.0%だったのに対し、両親に不安定なグループでは51.4%に達しました(p < 0.001)。人格の問題を示す指標でも同様に大きな差が見られました。

著者の考察:愛着は相手によって上書きされる可能性

研究チームは、多くの人が相手ごとに異なる愛着スタイルを使い分けている事実を指摘しています。特定の親に対して愛着が不安定であっても、別の親やパートナーと安定した関係を築くことで、それが心の保護要因(クッション)として機能している可能性を著者は示唆しています。

特に、母親への愛着の不安定さは父親の場合よりもメンタルヘルスへの影響が強く見られました。これは、現代社会においても依然として母親が子供の「安全な基地」として中心的な役割を担うことが多い現状を反映していると、研究チームは推測しています。

また、両親に不安定な愛着を持つ人がパートナーには安定を感じていた結果については、一つの限界点も示されています。パートナーと安定した関係を築けない人は、そもそも「現在のパートナー」を評価対象として回答できなかった可能性(選択バイアス)があり、今後のさらなる研究が必要であると結論づけています。

研究チームは、このANQという手法が、臨床現場で患者が特定の相手とどのような関係を築いているかを深く理解し、治療に役立てるための有効なツールになると期待を寄せています。

本研究により、人の心は一律ではなく、相手との関係性の中で多様に変化するものであることが実証されました。

参考文献

Kamperman, A. M., Kooiman, C. G., Lorenzini, N., Aleknaviciute, J., Allen, J. G., & Fonagy, P. (2020). Using the attachment network Q-sort for profiling one’s attachment style with different attachment-figures. PLOS ONE, 15(9), e0237576. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0237576

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