恋愛と結婚の価値観:最新研究で判明した「愛の重荷」の正体

関西大学の谷本奈穂教授と成蹊大学の渡邉大輔講師らの研究チームは、19世紀に誕生し近代家族を支えてきた「恋愛・性・結婚」をセットで考える価値観が、現代において大きく変容していることを発表しました。

かつては「結婚を前提としない恋愛は不誠実」とされましたが、今の若者にとって恋愛と結婚の結びつきはどう変化しているのでしょうか。この記事では、1万人規模の調査データから見えてきた、現代人のリアルな恋愛観を紐解きます。

今回のポイント

  • 90年代以降、雑誌から「結婚」という恋愛の結末が消え、恋愛は自由なものへ変化した
  • 若い女性を中心に、結婚には恋愛感情が不可欠とする「ロマンティック・マリッジ」が台頭
  • 経済力に加え「愛」も必須条件となったことで、現代の結婚は「二重の重荷」を負っている
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40年間の雑誌分析と1万人へのWEB調査で迫る恋愛観の変化

研究チームは、目に見えない人々の価値観を可視化するため、3つの膨大なデータを分析しました。1つ目は、1970年代から2000年代にかけて発行された若者向け雑誌248冊(総計1,597ページ)の恋愛記事です。週刊プレイボーイやnon-noなど、時代を代表する雑誌が対象となりました。

2つ目は、過去の別れの理由を分析するテキストマイニングです。これは、膨大な文章データから頻出するキーワードを抽出し、その背後にある構造を明らかにする分析手法のことです。30~50代の男女1,041名を対象に行われました。

3つ目は、2015年に実施された20~69歳の男女12,007名を対象とした全国規模のWEB調査です。これにより、年代ごとの意識の差を定量的に測定することに成功しました。

恋愛の結末から「結婚」が消滅?雑誌記事に見る驚きの推移

雑誌分析の結果、1970年代には恋愛記事の29.2%が「結婚」をテーマにしていましたが、2000年代にはわずか1.1%まで激減していることが分かりました。つまり、言い換えると、メディアにおいて恋愛は「結婚を目指すプロセス」ではなく、その瞬間を楽しむものへと定義し直されたのです。

また、別れの理由についても興味深い発見がありました。かつての離婚理由は「失業」や「家事放棄」といった役割を果たさないことが主でしたが、現在は恋愛の別れと同様に「性格の不一致」が1位となっています。これは、心理学のSVR理論で説明できます。

SVR理論とは、対人関係が進展するステップを、外見などの刺激(Stimulus)、価値観の類似(Value)、役割の適合(Role)の3段階で捉える理論です。かつて結婚は「役割(R)」の段階で維持されるものでしたが、現代では「価値観(V)」が合わなければ、結婚後であっても関係を解消する「恋愛と同じような流動的な関係」へと変化しているのです。

20代の5割が「恋愛のゴールは結婚ではない」と回答

全国調査の結果、従来の「ロマンティック・ラブ・イデオロギー(恋愛のゴールは結婚であるべきだ)」を否定する人の割合は、20代で54.6%に達しました。一方で、60代では42.9%にとどまっており、若い世代ほど恋愛を結婚の義務から解放していることが鮮明になりました。

特に注目すべきは、若い女性の意識です。20代女性の約38%は、「恋愛のゴールは結婚でなくてもよいが、結婚には恋愛感情が必須である」というロマンティック・マリッジ・イデオロギーを支持しています。

これに対し、同年代の男性は、恋愛も結婚もすべて愛で結びつける「徹底したロマンチスト」の割合が高い傾向にありました。女性の方が「より良い結婚相手を見極める機会」として、戦略的に恋愛を結婚から切り離している可能性が示唆されています。

愛が結婚の審判者に。高すぎる「理想のハードル」

研究チームは、現代の結婚難の背景に「正当性の基準の逆転」があると考えています。かつては「結婚に繋がるかどうか」が恋愛の正しさを決めていましたが、今は「愛があるかどうか」がその結婚が正しいかを裁くようになっています。

この変化は、結婚に対して「二重の重荷」を課すことになりました。現代の結婚には、生活を維持するための経済条件(年収など)に加え、恋愛関係のような強い情緒的絆までもが「絶対条件」として求められます。この高いハードルが、未婚化や晩婚化を加速させている一因であると著者は考察しています。

恋愛が自由になったことで、人々は「もっといい人がいるかもしれない」と選択肢を吟味し続けるようになり、結果として結婚が先送りされる状況が生まれているのです。

次に知っておきたい:なぜ「恋愛が面倒」と感じる若者が増えているのか?

研究では、自由な選択肢が増えたことで、かえって「自由からの逃走」や「アノミー(社会的な無規制状態)」に陥る可能性についても言及されています。恋愛が統制から解放され、個人の自己決定に委ねられた結果、失敗の責任もすべて個人が負うことになります。この重圧や、多くの機会から最適解を選び続けなければならない疲弊感が、近年の「恋愛離れ」や「交際を面倒と感じる心理」を助長している可能性があり、今後の社会調査における重要な焦点となるでしょう。

ロマンティック・ラブ・イデオロギーとは何か?という問いへの答えは、愛と性と結婚を一つに結びつける近代特有の考え方のことであり、現代ではその解体が進んでいます。

本研究は、変化し続ける家族のあり方と、私たちの幸福のバランスを考える上で、極めて重要な視点を提供しています。

参考文献

谷本 奈穂, 渡邉 大輔 (2016). ロマンティック・ラブ・イデオロギー再考 ―――恋愛研究の視点から――. 理論と方法, 31(1), 55-69. https://doi.org/10.7059/jams.31.55

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