イスラエルのテルアビブ大学の研究チームが2023年11月、若者が恋愛関係を求める動機とその構造に関する大規模な調査結果を発表した。
「なぜ人は恋をするのか?」という問いに対し、詩人や作家は無数の答えを用意してきたが、科学的なアプローチは意外にも少なかった。今回、研究チームは1,000人を超える若者を対象に、恋愛における心理的動機を徹底的に分析したのだ。
その結果、恋愛の動機は複雑怪奇なものではなく、明確な「4つのカテゴリ」に分類できることが判明した。さらに、ある特定の動機を持つと、別の要素を犠牲にせざるを得ないという「残酷なトレードオフ」の存在も明らかになったのである。
今回のポイント
- 18歳から30歳の男女1,121人を対象に恋愛動機を調査
- 恋愛動機は「愛・冒険・地位・家庭」の4つに分類される
- 「愛」を求めると「地位」への関心が下がる傾向が判明
1121人の若者を解剖する:恋愛動機の構造化
研究の信頼性を担保するのは、そのサンプルの質と量だ。今回の研究には、平均年齢24.3歳のイスラエル人の男女1,121名が参加した。彼らは全員、調査時点で特定のパートナーを持っていなかったが、「恋人が欲しい」と願っている若者たちである。
研究チームは、文献レビューとインタビューを通じて収集した「人が恋愛を求める理由」をリスト化し、最終的に73項目の質問リストを作成した。参加者は、「愛されていると感じるため」「退屈を紛らわせるため」「経済的な利益のため」「親の期待に応えるため」といった項目に対し、どれだけ重要視するかを6段階で評価した。
さらに、シュワルツの価値観理論に基づき、個人の基本的な価値観(権力、達成、快楽など)と、求めるパートナーの特性(社会的地位、身体的魅力、自分との類似性)についても詳細なデータを収集した。
集められた膨大なデータは、多次元尺度構成法(MDS)という統計手法を用いて解析された。これは、各要素の心理的な距離を2次元のマップ上に配置する手法である。これにより、単なるリストではなく、動機同士の「位置関係」が視覚化されたのだ。
愛と金は両立しない? 4つのクラスターと対立構造
解析の結果、恋愛の動機は以下の明確な4つのクラスター(塊)に分類されることが明らかになった。
1. 愛とケア (Love and Care)
相手を大切にしたい、愛されたい、感情的な支えが欲しいという動機だ。驚くべきことに、これが男女ともに最も重視される動機であった。従来のステレオタイプに反し、男性もこの「情緒的なつながり」を最優先事項としていたのである。
2. セックスと冒険 (Sex and Adventure)
性的満足、孤独からの逃避、心理的な成長を求める動機だ。これは「愛とケア」と隣接しており、多くの若者にとって愛と性的冒険はセットであることを示している。
3. 地位と資源 (Status and Resources)
経済的利益、社会的地位の向上、支配、親からの独立などを求める動機だ。興味深いのは、この動機がマップ上で「愛とケア」の正反対に位置していたことである。
4. 家庭と子供 (Family and Children)
家族を持ち、子供を育てることを目的とする動機だ。これは「セックスと冒険」の対極に位置している。
ここで判明した最も残酷な事実は、これらの動機が「円環構造」を成しており、対極にあるものを同時に求めるのは心理的に困難だということだ。
つまり、「純粋な愛と情緒的サポート」を強く求める人は、同時に「相手を利用して社会的地位や金を上げること」を動機にしにくい。逆に、「社会的成功」を恋愛の主目的にする人は、情緒的な「愛とケア」の優先順位が下がる傾向にあるのだ。人間は、すべてを同時に手に入れるようにはできていないのである。
恋愛動機が「パートナー選び」を操っている
この研究は、我々の「好み」がどのように形成されるかについても言及している。
分析の結果、個人の根本的な「価値観」が「恋愛動機」を形成し、その動機が最終的に「パートナーの好み」を決定していることがデータで示された。
具体的には、「自己高揚(権力や達成)」の価値観を持つ人は、「地位と資源」の恋愛動機を持ちやすく、結果として「社会的地位の高いパートナー」を選ぶ傾向が強い。一方で、「変化への開放性」が高い人は、「セックスと冒険」を動機とし、「身体的魅力(ルックス)」の高いパートナーを求める相関が見られた。
また、自分と「似た者同士」を求める傾向(類似性の重視)は、「地位と資源」を求める動機と関連していた。これは、自分と似た相手を選ぶことが、現在の社会的地位を維持・安定させるための戦略であることを示唆している。
あなたの「本当の望み」を知る手がかり
この研究結果は、現代の恋愛におけるミスマッチを解消するヒントになる。
もしあなたがパートナーに対して「もっと情緒的に寄り添ってほしい」と不満を感じているなら、相手がどのような動機で恋愛関係にあるかを見極める必要があるかもしれない。相手が「地位と資源」や「社会的成功」を恋愛の第一義に置いている場合、構造的に「愛とケア」の優先度は低くなるからだ。
また、婚活において「高収入(資源)」と「深い愛情(ケア)」と「刺激的なルックス(冒険)」と「家庭的な安定(家庭)」のすべてを求めることが、いかに困難であるかも示されている。これらは心理的なマップ上で異なる方角を向いている。
自分の恋愛動機が4つのうちどこに位置するのかを理解し、相手の動機と照らし合わせることが、無用な衝突を避ける鍵となるだろう。特に、「冒険」を求める時期にある人と、「家庭」を求める時期にある人のマッチングは、心理的に対立構造にあるため注意が必要だ。
「愛があれば何でもできる」と言いたいところだが、どうやら我々の脳内では、愛を求めるとき、他の何かを諦める計算が働いているようである。
参考文献
Tartakovsky, E. (2023). The psychology of romantic relationships: motivations and mate preferences. Frontiers in Psychology, 14, 1273607. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1273607


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