恋の「熱量」は調整可能だが「ON/OFF」は不能と判明

「この恋心を自在にコントロールできたら、どれほど楽だろうか」

誰しも一度はそう願ったことがあるはずだ。燃え上がるような恋心を落ち着けたい時もあれば、冷めきった夫婦関係に再び火をつけたい時もある。しかし、私たちの多くは「恋は落ちるものであり、意志でどうこうできるものではない」と信じ込んでいる。

だが、科学のメスが入ることで、その常識は半分正しく、半分間違っていることが明らかになった。

アメリカのミズーリ・セントルイス大学(University of Missouri-St. Louis)の研究チームが2019年5月に発表した研究により、人間は「恋の強さ(強度)」は自分の意志で変えられると認識している一方で、「恋の始まりと終わり」については全くの無力だと感じている事実が判明したのだ。

この発見は、私たちが無意識に抱いている「恋愛観」の構造を浮き彫りにし、恋愛の悩みを解決する新たな糸口を提示している。

今回のポイント

  • 人は恋心を「減らす」よりも「増やす」方が簡単だと考えている
  • 「性欲」や「愛着」に比べ「情熱的な恋心」は制御困難だと認識されている
  • 感情の演技は可能だが、恋心をゼロから作り出すことは不可能と判明

286名の男女が挑んだ「愛の制御」テスト

愛を科学的に解剖するため、研究チームは平均年齢22.1歳の大学生286名(女性230名、男性52名、その他4名)を対象に大規模な調査を行った。

この実験のデザインは極めてシンプルかつ残酷なものだ。参加者は、自身の恋愛経験に基づき、「特定の感情を自分の意志でどの程度コントロールできるか」を1点(全くできない)から9点(完全にできる)の数値で評価するよう求められた。

ここで重要なのは、研究チームが「愛(Love)」という曖昧な言葉を分解し、以下の3つの要素に定義した点である。

1. 情熱(Infatuation):出会った当初に感じる、相手への強烈な陶酔感やドキドキする感情。
2. 愛着(Attachment):相手との間に築かれる穏やかな絆や安心感。
3. 性欲(Sexual Desire):身体的な快楽や衝動を求める感覚。

さらに、コントロールの方向性についても詳細な条件が設定された。「感情を強める(アップレギュレーション)」ことができるか、逆に「弱める(ダウンレギュレーション)」ことができるか。そして、「演技(表情の偽装)」は可能か、「開始(Start)」と「停止(Stop)」は可能か。

つまり、参加者たちは自分の心の中に潜り込み、愛という不可解な現象に対して、自分がどれだけの操縦権限を持っているかを冷徹に自己分析させられたわけだ。

「増幅」は得意だが「抑制」は苦手という矛盾

集められたデータを解析した結果、人間の恋愛観に関する驚くべき傾向が浮き彫りになった。

まず、全体的な傾向として、参加者は「恋心を強めること」に関しては自信を持っていた(平均6.4点)が、「恋心を弱めること」に関しては自信がない(平均4.4点)ことが判明した。

これは基準値である5点(中立)を下回っており、多くの人が「一度燃え上がった恋の炎を自分の意志で小さくすることはできない」と信じ込んでいることを示している。失恋後にいつまでも未練を引きずったり、叶わぬ恋に苦しみ続けたりするのは、そもそも「感情は減らせない」という強力な思い込みが存在するためだ。

また、愛の種類による違いも明確になった。参加者は「愛着」や「性欲」については比較的コントロールしやすいと感じていた一方で、「情熱(Infatuation)」については制御が難しいと感じていた。

特筆すべきは、「性欲」の制御に関する認識だ。一般的に性欲は衝動的で抑えがたいものと思われがちだが、データ上では「情熱」よりも「性欲」の方が、意志の力で増幅させやすいと認識されていたのである。

さらに、表情や態度のコントロールに関しては、参加者は非常に高い自信(平均6.5点以上)を示した。つまり、心の中でどれだけ相手に夢中であっても、あるいは逆に冷めきっていても、それを隠したり、逆に大げさに表現したりすることは「可能である」と誰もが確信しているのだ。

しかし、最も絶望的な数値が出たのは「開始」と「停止」の項目である。全く何とも思っていない相手に対してゼロから好意を作り出すこと(平均3.8点〜4.5点)、そして好きな相手をきっぱりと嫌いになること(平均4.2点〜4.7点)については、参加者は「不可能」との判断を下した。

要するに、私たちは「ボリューム調整はある程度できるし、外見上の偽装も完璧にできるが、電源スイッチ自体には触れられない」と認識しているということだ。

思い込みを捨てれば、恋愛は制御できる

この研究結果は、恋愛における私たちの行動指針に重要な示唆を与えている。

まず、長年連れ添ったパートナーへの愛情が薄れていると感じた場合、多くの人は「もう愛していない」と諦めてしまう。しかし、今回のデータによれば、人々は「愛着」や「性欲」を意図的に高める能力を自認している。つまり、意識的に相手の良い面を見たり、スキンシップを増やしたりする「認知的再評価」を行うことで、冷めた感情を再燃させることは十分に可能なのだ。

一方で、失恋や不倫など、望ましくない恋心を断ち切りたい場合、私たちは「感情を弱めることはできない」という思い込みに支配されている。これが最大の落とし穴だ。

先行研究において、実は人間はネガティブな再評価(相手の嫌な部分を考えるなど)を行うことで、実際に愛の感情を減少させることが可能であると実証されている。今回の研究で明らかになったのは、能力の欠如ではなく、単なる「自信の欠如」だ。

「恋心は自分ではどうにもできない」という認識こそが、メンタルヘルスを悪化させ、実際に感情制御を行う意欲を削いでいる可能性がある。

結論として、恋愛感情は雷のように突然打たれるものではなく、ある程度は自分で調光可能なルームライトのようなものだと考えるべきだ。スイッチは見当たらないかもしれないが、ダイヤルを回す手は私たち自身に委ねられている。

References
Surti, K., & Langeslag, S. J. E. (2019). Perceived ability to regulate love. PLoS ONE, 14(5), e0216523. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0216523

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