【社会心理学】偏見をなくす方法とは?差別を防ぐ行動の科学

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職場の無意識な一言やSNSでの無遠慮な発言に違和感を覚えつつも、何も言えなかった経験はありませんか。世の中の差別や偏見をなくす方法を探していても、具体的なアプローチに悩む人は多く存在します。この記事を読むことで、他者への不当な見方を解消し、困っている人に寄り添う行動力を身につける科学的手順が分かります。今回は東京大学の研究チームが行った実験をもとに、実証された事実をお伝えします。

今回のポイント

  • 当事者の語りを他者に語り直す活動が偏見を直接低減させた
  • 自身の恵まれた環境に気づくことで差別へ立ち向かう意志が高まった
  • 他者の状況を想像する認知作用が二つの効果を両立させた
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本題に入る前に:理解を深める三つの専門用語

実験内容を正確に把握するため、研究で扱われた重要概念を整理します。日々の生活場面と結びつけながら確認しましょう。

アライ(Ally)とは、マイノリティ(社会的少数者)に連帯し、その権利や環境の改善に向けて行動するマジョリティ(多数派)を指します。職場で不当な扱いや陰口を目撃した際、傍観せずに「それは違うのでは」と声をかけたり、制度見直しを提案したりする味方の存在です。

マジョリティの特権とは、特定の社会属性に属していることで、労力なく自動的に享受できる優位性です。夜間に一人で街を歩く際の安全性、求人応募時の性別不問、公共施設のバリアフリー環境など、普段は意識しにくい獲得済みの利益を意味します。

他者想像の視点取得とは、「もし自分が相手だったら」ではなく「相手の状況や背景において、相手がどのように感じているか」を想像する認知作業です。相手の行動の理由を性格や属性に求めるのではなく、相手が置かれた厳しい環境へと目を向けるきっかけを作ります。

当事者の語りを代弁する実験プログラムの全貌

東京大学の入澤らの研究チームは、19名の大学生・大学院生(分析対象)を集め、「証言的対話」と呼ばれる約5時間の教育プログラムを実施しました。研究協力者として、ゲイを公表するテレビ局勤務の卒業生、困窮家庭出身でNPOに勤務する卒業生、13歳で失明した全盲の卒業生の3名が参加し、幼少期と大学時代を語るインタビュー動画(各15分)を提供しました。

参加者は動画を視聴した後、以下のステップで対話を行いました。目の前に当事者が不在の環境で、語りを他者へ正確に伝達する役割を担いました。

第一に、動画視聴後に当事者へ向けたビデオレターを個別撮影する「郵便的対話」で準備を行いました。第二に、3人1組のグループになり、当事者の言葉や出来事を自分の言葉で再構成して他のメンバーに語り直す「物語的証言」を実施しました。質疑応答の場面でも、参加者は当事者の立場に立って回答を考えました。

第三に、大学時代の動画を視聴した後、「当事者は学費獲得に苦心していたが、一方で自分はアルバイトをやめても生活できる環境があった」というように、自身の特権と比較しながら語る「対位法的証言」を行いました。最後に、ファシリテーターによる全体証言を聞き、当事者の生き方を参考にしながら「自分はどのような人物として社会で生きていきたいか」を議論する「仮定法的証言」を展開しました。

感情温度計と意識尺度で見えた明確な変化

研究チームは、プログラム参加の前後にアンケート測定を実施しました。偏見の程度を測るため、特定の社会的属性(ゲイ、視覚障害者、生活困窮者)に対して抱く感情の温かさを0度から100度で表す「感情温度計」を採用しました。また、差別や構造的不平等に立ち向かう姿勢を調べるため、「マジョリティの特権に立ち向かう意志」の下位尺度(12項目、各1〜6点評定の加算値)を使用しました。

測定結果のデータは以下の通りです。

測定項目 事前平均値 事後平均値 統計的判定
ゲイへの感情温度 60.00度 72.63度 有意に上昇(p = .002)
視覚障害者への感情温度 67.11度 74.11度 有意に上昇(p = .04)
生活困窮者への感情温度 52.74度 70.26度 有意に上昇(p = .002)
対象3属性の平均感情温度 59.95度 72.33度 有意に上昇(p = .001)
特権に立ち向かう意志尺度 50.21点 55.74点 有意に上昇(p < .001)

一言で言うと、当事者の物語を代理で語り直す体験によって、マイノリティへの温かい感情が高まり、差別的な社会構造に反対する意識が強まったと言えます。

なぜ想像による代弁が偏見を減らしたのか

従来の研究では、「相手と自分は同じ人間だ」と共通性を強調して偏見を減らす方法と、「相手と自分には決定的な立場の違いがある」と不平等を認識させる方法が衝突し、両立が困難とされていました。違いを強調しすぎると葛藤が生じ、同質性を強調しすぎると社会的不平易を見過ごすためです。

本研究チームは、「他者想像の視点取得」を仲介させることでこの問題を解決しました。当事者の状況を他者視点から慎重に描写し直す中で、参加者は「相手の行動や苦労は個人の性格ではなく置かれた環境に起因する」という認識(状況的帰属)を強めました。さらに「相手は困難な環境で生きているが、自分はその困難を免れている」と自身の特権に気づき、当事者の歩みに敬意を抱いた結果、偏見低減と行動意識の向上という二つの変化が同時に生じました。

ただし、本研究には限界が存在します。対象者が東京大学の学生・大学院生19名に限定されており、最初から問題意識が高い層が集まった可能性があります。また、参加者の中には自身の複雑な家庭環境と特権の定義の間で感情的な葛藤を覚えたケースも報告されました。

今日からできる日常の視点チェンジ行動術

研究で得られた知見を、日常生活の行動に落とし込むための具体的アクションステップです。

  1. 疑問に思った他者の発言を第三者に語り直してみる

    身近な人の苦労や体験談を聞いた際、「相手がどの場面でどんな障害に直面していたか」を正確に整理して知人に伝えます。他者の視点を認知的に再構築することで、個人の性格ではなく環境に原因を見出す視点が養われます。
  2. 「自分は苦労せずに済んでいること」を書き出す

    一日の終わりに、自分が特段の努力なしにスムーズに通過できた場面(例:移動のしやすさ、発言の聞き入れられやすさ)をノートに1つ挙げます。自分の持つ特権を客観視することで、環境の差による不平等に気づきやすくなります。
  3. 差別的な発言に対して「それってどういうこと?」と問い返す

    職場や会話の場で偏見に基づく冗談を聞いた際、感情的にならず「どういう意味ですか」と静かに問い直します。対立を起こさずに相手に発言の背景を再考させ、不当な言動を抑止する効果が得られます。

よくある質問

Q1. 当事者と直接会って話すのと動画を見るのではどちらが効果的ですか?

動画視聴は相手が不在のため、直接の質疑応答に頼らず自分の頭で視点を想像し続ける必要があり、より深い思考を促すメリットがあります。

Q2. 自分の環境に恵まれていないと感じる人でも効果はありますか?

自身に苦労がある場合、特権という言葉に抵抗を感じることがあります。自分の背景を整理しつつ、段階を追って他者との差を観察することが推奨されます。

Q3. 他者の視点を考える際に意識すべき点は何ですか?

「自分ならどうするか」ではなく、「その人が生きてきた背景や環境において、その人がどう感じるか」を想像することがポイントです。

参考文献

入澤充・杉山昂平・山内祐平 (2026). 証言的対話に基づいたアライの教育プログラムの開発―視点取得を支援原理として―. 日本教育工学会論文誌, J-STAGE Advance published.
https://doi.org/10.15077/jjet.49126

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